解雇された場合にどうすべきか?!〜神社元神職解雇無効裁判の和解成立〜

 ある日、いきなり勤務先から解雇されるということは、今の時代、誰にでも起こりえるでしょう。

 

 解雇とは、会社と雇用契約を締結していた労働者が会社から一方的な意思表示で辞めさせることを意味しています。

 これに対して、労働者が自発的に会社を辞める場合には解雇には当たらず、(自主)退職と言うのが通常です。また、退職勧奨に応じて会社を辞めることを選んだ場合もあくまで退職であり、解雇とはいえません。

 

 これを前提に考えたとき、解雇なのか、(自主)退職なのかというのは重要な分かれ道になってきます。

 ご存知の通り、解雇というのは法的に正当化するのは難しいので、企業側からすれば退職勧奨による自主退職が望ましいことになります。そのため、悪質な会社であれば、解雇かどうかをあいまいにした上で、労働者が欠勤したことを無断欠勤として捉えてくることがあるので要注意です。

 曖昧な場合や口頭で解雇された場合などは、解雇されたことを明確にさせておくことが大切です。前提を確定させることによって、争い方も決まりますし、不本意ではあるかもしれませんが、労働者にとっては法的には解雇である方が争いやすいことになります。

 メールやメッセージなどで明確に「解雇」「クビ」などという言葉が明記されていればそれで確定できます。例えば、「これは解雇ということですか」などと上司にあえて送って返信を求めることも考えられます。口頭のみでは、”言った言わない”の水掛け論になるので、状況に応じて、会社に「解雇理由証明書」を請求して発行させましょう。労働者が要求すれば会社は当該証明書を発行する義務を負います(労働基準法22条)。こちらを発行させれば解雇理由も明確にさせることができます。

 

 解雇であることが明確になれば、これを不服とする労働者からこれを争っていくことになります。もし解雇が無効になれば、会社との雇用契約は存続していることになり、解雇されてからの賃金も基本的に請求できることになります。仕事をしていなかったとしても、それは会社側に原因があるため、賃金を請求できるのです。

 

 最近、神社の元神職が解雇されたとして争った事案で和解が成立した旨の報道がありました。


 

北九州・八坂神社 元神職の解雇無効で和解成立 福岡高裁(4/25(火) 19:27配信 毎日新聞

 

 北九州市小倉北区の宗教法人「八坂神社」の元神職が、権限のない役員に不当に解雇されたとして、神社に地位確認を求めて提訴し、神社側が元神職の復職を認めることなどを条件に福岡高裁で和解が成立したことが関係者への取材で判明した。…代理人の阪本志雄弁護士によると、和解内容は23年5月から30年5月までの7年間、波多野さんを上席祢宜として社務に携わらせるなどの雇用契約を結ぶほか、神社側が解決金約415万円を波多野さんに支払うもの。…

 訴状などによると、波多野さんは17年1月に神社の運営事務を担う「責任役員」に就任。18年4月30日、別の責任役員の男性から、波多野さんの発言が社務の運営に混乱を招いたなどとして「明日から来なくていい」と一方的に告げられ、翌5月1日に解雇通知書を渡された。…

 


 こちらの事案は解雇した役員のその権限があったかどうかが争点になっている点でかなりイレギュラーではありますが、仮処分手続きや裁判を経て、最終的には、”復職+一定額の金銭(おそらくは働けなかった期間の賃金の一部)”で解決したようです。 

 

 こちらの事案はイレギュラーですが、通常、解雇が有効か無効かの判断基準は、①客観的に合理的理由があるかどうか、②解雇が社会的に相当と言えるかどうか(労働契約法16条)です。

 一般論として言えば、会社側にとってこのハードルはかなり高く、裁判所は簡単には認めません。

 解雇が正当化されるのは、例えば、犯罪行為や違法行為などがあったとか、それまでに解雇以外の処分を積み重ねてきた実績などが必要となってきます。

 

 解雇を争う場合には、❶復職または❷金銭解決を求めて会社と交渉していくことになります。会社との対立が深まると、復職は現実的には難しくなっていくので注意が必要です。

 交渉でも難しい場合、争う手続きとしては、仮処分・訴訟と労働審判が考えられます。

 早めに金銭的な解決を望む場合は労働審判がお勧めです。労働審判は原則3回の期日までで、1回目の期日で終わることも多く、双方ともにそのような思惑で期日に臨むことも多く、早期和解の可能性が非常に高いのが現状です。

 他方、時間をかけてでも復職を求める場合や妥協せずに金銭を求める場合には、仮処分や訴訟の方が良い場合が多いでしょう。

 

 このように、解雇が無効となるかどうかの見通しを踏まえて、復職をどこまで本気で求めるか、いつまでの期間でどこまで争って解決を求めるか、 などに応じて、最適な争い方を選択していくことになります。この判断は決して容易ではなく、経験も必要ですので、弁護士と相談しつつ決めていくのが良いでしょう。