パワハラ消防士への免職を最高裁が有効と判断しました!

 

 公務員(消防士)が部下にパワハラをしたことを理由に懲戒処分(免職)を受けたケースで、一審と高裁が免職を重すぎるとして取り消していた件で、最高裁がこの判断を破棄し、免職は妥当としました。

 

 パワハラの内容を聞くと、一般の方なら「免職は当然」と思われるかもしれませんが、実際には一審や高裁はこれを取り消していたのであり、その判断を覆したという意味でパワハラの重みづけが変わってきていると評価しうる見方もあるでしょう。

 

 以下、報道を引用して事案を紹介します。

 

「十数年、不適切な指導」 消防士パワハラで免職は「妥当」 最高裁 (9/2(火)付毎日新聞)

 パワーハラスメントをしたとして懲戒免職処分となった福岡県糸島市消防本部元係長の50代男性が、市に処分の取り消しなどを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷は2日、処分を取り消した2審判決を破棄し、請求を棄却した。部下をロープで縛って懸垂させて数分間宙づりにしたことなどを挙げ、免職処分は妥当と判断した。市側の逆転勝訴が確定した。

 裁判官5人全員一致の意見。石兼公博裁判長は「十数年もの間、不適切な指導や発言を執拗(しつよう)に繰り返した」と述べた。

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 1審・福岡地裁判決(22年7月)は元係長の行為は「極めて悪質とまではいえない」とし、市の処分を違法として懲戒免職を取り消し、慰謝料100万円の支払いを命じた。2審・福岡高裁判決(24年1月)は賠償額を110万円に増額していた。

 


  この事案において、男性は2008~17年、消防本部の部下ら約30人に対し、バーベルを投げて頭で受け止めさせるといった暴行や暴言など計約80件のパワハラを行っていたようで、パワハラ自体は悪質な部類に入るでしょう。また期間も長く、被害者も多数にのぼるようです。

 これらを考慮し、長門市は2017年8月、職場の人間関係や秩序を乱したとして、男性を分限免職処分としていました。

 

 一審・山口地裁は、男性の職場には粗暴な言動を助長する風潮があったと指摘して、パワハラが続いたのは個人の素質や性格だけが原因とは言えず、免職処分は違法としていました。男性個人の責任の一部を、組織的な職場環境の問題と捉えた結果、その分だけ処分が重過ぎると判断したということでしょう。

 そして、二審・広島高裁も、「(市側が)今日の社会的要請であるパワハラ防止研修を行った事実はうかがわれず、改善の可能性を十分に考慮したかも疑問だ」などとして、更生の機会を与えず免職としたのは重過ぎるとして処分を取り消す判決を言い渡しました。こちらは更生の機会を重視し、段階的な処分を与えるべきという判断でしょう。

 

 これらに対して、最高裁は、判決理由で「一連の行為に表れた粗野な性格について、消防職員に求められる適格性がないとみることや、指導しても改善の余地がないとみることに不合理はない」とし、男性がパワハラ行為を告げ口した部下らへの報復を示唆していたことも挙げ「消防組織内に配置しつつ、組織の適正な運営を確保することは困難だ」としました。

 男性側は、消防組織の特殊な職場環境を考慮すべきだとも訴えていましたが、判決は「処分が許容される限度を超えていないことは(男性の職場に)上司が部下に厳しく接する傾向があったとしても何ら変わるものではない」と退けました。

 

 前提として、長期間にわたり多数の被害者がいるようなパワハラ事案ではありますが、その悪質性に鑑みて、段階的な処分として更生の機会を与えずとも、指導による改善の余地がない場合には免職処分も有効となりえ、また上司による部下への厳しい対応が一般的な組織でも、そのことをもって安易に個人の責任を減退させるべきではないことを示唆しているように読めます。

 

 こちらはあくまでも公務員の事案であり、民間にそのまま当てはまるものではありませんが、一審や二審と真逆の判決を最高裁が出し、パワハラによる免職を認めたことには、社会情勢の変化が影響した可能性は否定できないでしょう。10年前でも同じ判断になったとは考えにくいところがあります。

 

  安易にこの事案をもって課題な評価をすべきではありませんが、いずれにせよ、組織の特性を超えてパワハラによる個人への加害性や組織への悪影響などの問題性を捉える必要はあり、願わくば、このような行為が十年近く放置され、多数の被害者が出ないよう、管理者において適切な対応を求めるばかりです。