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新しい研修〜”不適切保育を防ぐために”〜

1 保育園・幼稚園の管理者向け研修

 先日、川西市教育委員会から依頼を受け、幼稚園・保育園の園長等の施設管理者向けの研修を実施させていただきました。

 これまで、学校問題含む子ども関連の問題についての研修は数多く経験しておりましたが、未就学児童を対象とする幼稚園や保育園に関する研修講師は初めて担当しました。

 

 講師をするにあたって、真っ先に思い出したのは、ある保育園で保育士3名が園児らに対して虐待を加えたというニュースです。

 園児虐待 園が市に提出の調査報告書を独自入手 静岡 裾野(2022年12月5日 19時27分)

 調査の結果、行われたとされている行為を見ると、想像を超えるものでした。一般の方からすれば、「保育士がこんなことをするなんてあり得ない!」という感想をもつでしょう。

 

 ただ、もし同業の方がこのニュースを観たときに、同じような感想をもって、保育士個人の問題と捉え、「うちの園では絶対に起きない!」と思うことは大変危険です。

 繰り返された園児バス置き去り死亡事件でも、園長は”まさか自分のところで起きるとは思ってなかった”という発言をしていました。

 個人個人の問題と捉えてそれを断罪するだけでは、決して再発を防止することはできません。あくまで園としての問題であり、一歩間違えればどこにでもおきるかもしれないという意識をもって、その原因を考えることが大切です。

 

 このような話をすると、”いや、うちの職員を信頼しているから大丈夫!”と思われる方もいるでしょう。このような「性善説」的な考え方は人としては大事なことですし、尊重されるべきです。

 ただ、子どもたちの命を預かる施設の管理者としてそれで足りるかと言われれば、やはり不適切です。このような対応を考えるときには、「性善説」でも「性悪説」でもなく、「性弱説」的な立場で考えることが大切です。

 つまり、人は弱い生き物であり、環境や状況によってはいかなる過ちをも犯してしまう可能性があるという発想です。このような立場に立って、職員がそのような状況に追い込まれないよう対策を考えることが大切なのです。

 

2 子どもの”最善の利益”と管理者の法的責任

 先日、川西市教育委員会から依頼を受け、幼稚園・保育園の園長等の施設管理者向けの研修を実施させていただきました。

 これまで、学校問題含む子ども関連の問題についての研修は数多く経験しておりましたが、未就学児童を対象とする幼稚園や保育園に関する研修講師は初めて担当しました。

 

 講師をするにあたって、真っ先に思い出したのは、ある保育園で保育士3名が園児らに対して虐待を加えたというニュースです。

 園児虐待 園が市に提出の調査報告書を独自入手 静岡 裾野(2022年12月5日 19時27分)

 調査の結果、行われたとされている行為を見ると、想像を超えるものでした。一般の方からすれば、「保育士がこんなことをするなんてあり得ない!」という感想をもつでしょう。

 

 ただ、もし同業の方がこのニュースを観たときに、同じような感想をもって、保育士個人の問題と捉え、「うちの園では絶対に起きない!」と思うことは大変危険です。

 事件や事故のニュースを観たとき、誰もが自分のところにそのようなことが起きるとは思っていません。しかし、これは決して個人の問題だけではなく、園全体としての問題であり、どこにでも一歩間違えればおきるかもしれないという意識をもって、その原因を考えることが大切です。

 

 子どもの問題を考えていくにあたっては、根本的な部分は共通しており、子どもを1人の人間として尊重し、その人権や権利を擁護できるか、特に”子どもの最善の利益”をどのようにして守るかということが最重要になってきます。

 子どもの権利に関しては、日本も調印している子どもの権利条約で多様な権利が規定されており、その中でも重要なものは以下の4つです。

 

 

 そして、現場での不適切保育を防ぐためには最も重要なことは、個人のスキルに依存するのではなく、組織として、いかに不適切保育の芽をつむ体制を築けるかどうかということにあり、これがまさに施設管理者の責任になってきます。

 施設管理者の法的責任としては、事故を予見し、その事故を回避することを怠った場合に注意義務違反があるとして、民事上の賠償責任を負わされ、刑事罰が課せられることになります。そのため、これらの注意義務・監督義務を果たさなければ法的責任を負うことになり、具体化した安全対策の取り組みをしなければならないのです。

 

3 ”不適切保育”とは何か?!

 

 前提として、確認しておく必要があるのは、そもそも”不適切保育”とは何かというところです。

 保育士等の意識を高めるにあたっても、この共通認識を持つことから始めることが、極めて大切です。

 

 ここでは、令和3年3月に公表された「令和2年度 子ども・子育て支援推薦調査研究事業 不適切な保育に関する対応について 事業報告書」(株式会社キャンサースキャン)をもとに考えていきます。

 

https://cancerscan.jp/wp-content/uploads/2021/06/f29e3e0d816930e18686ba5d0661bf32.pdf

 

 ”不適切保育”とは、”保育所での保育士等による子どもへの関わりについて、保育所保育指針に示す子どもの人権・人格の尊重の観点に 照らし、改善を要すると判断される行為•子ども一人一人の人格を尊重しない関わり”と定義づけがされています。

 

 不適切保育の具体的な行為類型としては、

 ・物事を強要するような関わり・脅迫的な言葉がけ

 ・罰を与える・乱暴な関わり

 ・子ども一人一人の育ちや家庭環境への配慮に欠ける関わり

 ・差別的な関わり

などが挙げられています。 

 

 これらの発生が確認できた割合については、上記報告書から引用した図表の通りです。

4 不適切保育の要因・背景

 大切なことは、これらの不適切保育の要因・背景に着目し、それを受け入れて対策をねることです。決して表面的な保育士等個人の責任の問題として終わらせてはいけません。

 

 不適切保育の要因として、上記報告書で指摘されているのは、

①保育士の認識の問題

②職場環境の問題

です。

 

 ①については、子どもの人権や人格尊重の観点に照らして、どのような子供への関わり方が適切なのか十分に理解していないという問題です。

 一見、”結局、保育士個人の問題ではないか”とも思えますが、そうではなく、施設管理者として、このような問題があることを捉え、実効的な研修等による意識の改善・アップデートが求められ、実際にそれによって十分な改善が期待できるところです。

 

 ②については、施設における職員体制が十分でないなど、適切でない保育を誘発する状況が生じているという問題です。シンプルに言えば、日常業務にあたる保育士において、余裕があるかどうかです。余裕がない職場環境であればあるほど、不適切保育を誘発するおそれが高まらざるを得ません。

5 不適切保育を防ぐ対策(予防・発見統制・事後)

 このような不適切保育の要因・背景を踏まえ、まずは平時の予防策として、以下の内容が考えられます。

 

①園長等の施設長からのメッセージ・決意表明をして保育士等の職員へ本気度を伝え、

②保育士等への研修によって、保育士等の意識を高め、

③事件・事故発生時の対応について、マニュアルを整備し、対応できるように訓練をしておくこと

 

 特に保育士等への研修については、高度なテクニックやスキルの習得に走りがちですが、むしろ、”不適切保育”とは何かということについて、まずは共通認識をもってもらうこと、これが重要と考えています。

 学校問題においても、「いじめ」が発生した事案の調査に入ると、いまだに「いじめ」の定義を理解していない教職員がいるということはよくあります。

 保育士等において、この共通認識をもてるだけで、相当な抑止効果が期待できると考えています。

 

 また、重大な”不適切保育”を防ぐためには、小さな失敗であっても、それを報告し、相談できる体制を作ることが非常に重要になります。

 

 通常、自分の失敗については誰も報告したがらないものです。ましてやそれで個人の責任が追及されたり、人事評価を下げるようでは、なおさらです。報告・相談を推奨し、実際にハードルを下げてできるようにする仕組みづくりと雰囲気づくりが大切です。 

 

 これは、いわゆる”発見統制”という場面の問題です。

 重大事故というのは、ミスが重なって起きるもので、1件の重大な事故の裏には、29軒の軽微な事故があり、その裏には300件のヒヤリ・ハットがあると言われています(ハインリッヒの法則)。

 

 日常的に起きる些細なことから報告・相談できるかどうかが重要なポイントになってきます。

 他方、いったん不適切保育による事件や事故などが発生してしまった場合の対応も重要になります。

 こちらも平時から想定しておくことが非常に重要です。人は想定外のことにはなかなか対応できないものです。平時だからこと、適切な対応を冷静に考えることができます。

 

 事件・事故発生時の対応として何より重要なのは、”いかにして再発を防止するか”です。これについては、保育という分野にかかわらず、あらゆる分野において、共通したセオリーがあります。

すなわち、

①何が起きたか? → 事実調査

②なぜ起きたか?→ 原因究明

③どうしたら再び起きないのか?→ 再発防止

を明らかにするということです。

 

 この中で特に重要で、かつ、失敗しがちなのは、事実調査です。

 実際、多くのケースにおいて、事実調査が表面的な部分のみで終わってしまい、根本的な原因が解明できないまま、表面的な再発防止策を考えることになり、再発してしまうことがあります。

 何よりも徹底した事実調査が基本であることを改めて確認しておきましょう。


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