最近の報道で、”育休明けの女性の配置転換の違法性”が問題となったケースの判決がありました。
産休や育休等を理由として不利益な取り扱いをすることは男女雇用機会均等法などによって違法とされています。問題はどのような場合にこの不利益な取り扱いに当たるかです。
解雇や降格などの不利益な処分がこれに当たることは明らかです。
ただ、今時、大手企業がそこまであからさまに違法なこともしないでしょうし、むしろ何かしらしてくるとすれば、形式的にはそれらに当たらないが、実質的には不利益に当たりうるような対応をするでしょう。
だからこそ法的評価として微妙なケースも増え、裁判所の判断もわかれうることになってきます。
こちらの件では、産休・育休前に女性は部下37人をもつ部長職としてチームを率いていたのですが、休業中に組織変更によりそのチームが消滅しており、同じ部長職のまま、部下を持たずに新規販路を開拓する新設ポストに配置され、電話営業を指示されたというケースです。
まさに給与等含め形式的には不利益を受けていないものの、実質的には不利益を受けているとも評価しうる場合と言えるでしょう。
このようなケースで、以下の報道の通り、裁判所は違法な不利益な取り扱いとして損害賠償を認めました。
朝日新聞デジタル「育休後、部下が37人→0人 「均等法違反」でアメックスに賠償命令」(田中恭太 2023年4月28日 6時00分)
37人の部下を率いていたのに、産休・育休が明けると部下のいないポストに置かれた――。米クレジットカード大手「アメリカン・エキスプレス」に勤める女性が、こうした処遇は男女雇用機会均等法などに違反するとして同社に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が27日、東京高裁(永谷典雄裁判長)であった。判決は「均等法などが禁じる不利益な取り扱いにあたり、人事権の乱用で公序良俗にも反する」とし、女性の訴えを退けた一審・東京地裁判決を変更し、同社に220万円の賠償を命じた。
判決によると、女性は2008年に入社した。個人顧客向けの営業部門で昇進を重ね、14年1月には部下37人を持つ部長になった。妊娠に伴う体調不良で15年2月から傷病休暇を取った上で、同年7月の出産前後で産休と育休を取得した。
16年8月に復帰したが、女性が率いたチームは休業中に組織変更で消滅していた。同じ部長級ながら、部下を持たずに新規販路を開拓する新設ポストに配置され、電話営業を指示された。
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こちらの裁判では、「直ちに経済的な不利益を伴わない配置変更でも、業務内容の質が著しく低下してキャリア形成に影響を及ぼしかねないものは、不利な影響をもたらす処遇にあたる」と指摘されています。裁判所は、形式面だけではなく、実質的な業務内容の質という面にも着目して判断しています。チームが組織変更によって消滅したこと自体は会社側にとってもやむを得ないことですが、その代わりの業務が”新規販路を開拓する電話営業をする新設ポスト”でした。電話営業自体が意義のないものではありませんが、その会社において、それまでになかった(おそらく必要性がなかった)ものをあえて新設して配置転換していることからすると、実質的な意義はなく、ポストを作っただけの可能性があるでしょう。
このような判断に至った背景には、肩書きや給与などの形式面だけではなく、仕事のやりがいを求めたり、生き方を自由に選択していくという社会における価値観の変化もあるでしょう。
この裁判については、実際に1審では不利益性が否定されており、裁判所の判断もわかれています。
アメックス(降格等)事件(東京地判令元・11・13) 育休中に原職消滅、リーダーから外され違法? 同じ職務等級で不利益否定
2020.11.19 【判決日:2019.11.13】
このように東京高裁が形式的な面のみならず、業務内容の質などの実質的な面にまで踏み込んで判断したことが特徴的です。
今後は企業側も形式面だけではなく、実質的に不利益な取り扱いになっていないかに配慮する必要があるでしょう。