先日、兵庫県内の某小学校で、教員向けのいじめ事例対応の研修を実施しました。
いかなる分野においても、成功事例は個別要因がありますが、失敗事例には共通要因があるものです。そこから学ぶことが、失敗を繰り返さない大きなポイントとなります。
これまでのスクールロイヤーとしての経験から、集積した要素を混ぜた仮想事例を作成しました。この事例自体はこれまでの校長会等での講演でも活用してきましたが、今回は教員研修であることから、グループワークを中心として主体的に学びました。
研修のあり方自体も見直し、研修をデザインした結果、グループワークも非常に活発で、主体的な学びをしていただいた手応えがありました。
いじめ研修用仮想事例〜一部省略〜(©️2025m .matsuda)
私は28歳、小学校教員5年目で、6年生の担任をしています。クラスは落ち着いており、1学期は特に問題なく順調でした。ところが10月末、思わぬ事態が起こりました。
ある日の放課後、黒田さんの母親から電話がありました。黒田さんは1週間前から体調不良で休んでいたのですが、母親はこう言いました。
「実は、体調不良の原因は、1学期から赤井さんのグループに外され、2学期からいじめにあっていたようなんです」
私は驚きましたが、「なるほど。対処しますので、任せてください」と答え、電話を切りました。
私はすぐに学年主任に相談しました。主任からは「赤井さんや黒田さんの1学期からの様子を思い出してみて」と言われました。
確かに、赤井さんは女子のリーダー格で、黒田さんとも1学期は仲良く過ごしていました。主任は「勘違いの可能性もある。とりあえず関係者からヒアリングしてみよう」と助言しました。
そこで、翌日の放課後、私は赤井さん、白石さん、青山さんを1人ずつ呼び出しました。まず「最近、黒田さん休んでるよね。何か知らない?」と聞くと、全員が「さあ、わからない」と答えました。続けて「黒田さんは、あなたたちからはじかれて、2学期にいじめられていると言っているみたいだけど、どう?」と尋ねました。
赤井さんは次のように説明しました。
「1学期に黒田さんが私の悪口を白石さんに言っていました。私が指摘すると黒田さんは『ごめんね』と言ってくれましたが、私は許せなくてLINEグループから外れました。その後は3人で別のグループを作ってやりとりしていました。2学期以降はほとんど関わっていません」
白石さん・青山さんもほぼ同じ説明をしました。LINEのやりとりまでは確認せず、私は主任と一緒に3人へ「二度とはぶるようなことはしないように」と指導し、3人は「わかりました」と答えました。謝罪の意思までは確認しませんでした。
その日のうちに、私は黒田さんの母親に電話で報告しました。ところが母親は強い不信感を示しました。
「えっ、いきなり加害者に話を聞いたんですか? 素直に認めるはずないじゃないですか。先生は、うちの子が嘘をついているとでも言いたいんですか。これじゃ娘は学校に行けないじゃないですか!」
私は「誤解があるんじゃないかと思います。一度学校に来て直接話し合いましょう」と提案しましたが、母親は「もう先生とは話せません。教頭か校長を出してください」と要求しました。
ここで初めて主任・教頭・校長に相談し、いじめ対策委員会でも共有されました。以後は校長・教頭も同席する形での対応となりました。
学校で校長や教頭と黒田さんの母親と面談しましたが、「学校は加害者を守るのか」と言われました。また、黒田さんの母親からの要請で、保護者同士の話し合いも学校で開きました。その場で黒田さんの両親が加害保護者らを追求しましたが、加害保護者は「うちの方が被害者だ」と言って怒って帰ってしまう事態となり、全く平行線でした。
やがて黒田さんは不登校になり、30日を超える欠席が続きました。最終的に父親から「弁護士に相談している。加害児童には二度と関わらない旨の誓約書を書かせてほしい」と求められる事態に発展しました。
Q.この事例でどのような問題があり、どうすべきだったかをまずは個別に、続いてグループで検討しましょう。
もし教育委員会や学校関係者で、実効性のあるいじめ等の研修について、ご依頼を検討している場合は一度お問合せください。