建物建築中に発覚した欠陥への対応〜札幌市ビル工事やり直し事案〜

 一戸建てやマンション、ビルを建築する場合、通常、土地の所有者が建築工事業者に発注し、工事業者が下請け業者に各工事・作業を依頼して建てていくことになります。
 
 法的な側面をざっくり言うと、工事発注者が建築業者との間で建物の建築請負契約を締結、当該業者が下請業者と請負契約を締結し、各種工事を下請業者が実際に行って行く(大きな工事であれば、さらに孫請けと続いていきます)ことになります。

 

 このような建築工事ですが、1つの建物を建てるには様々な工事が必要であり、現実的には初めから完璧なものを作りあげることは困難です。1つの建物を建てるとなると、建物自体を完成しても多少の不備がつきものです。法的にも、そのような状況は想定されていると言え、その都度工事業者が補修していくことが予定されています。

 ただ、時には、「欠陥」というべきほどの大きな不備がある場合もあります。そのような場合、欠陥を補修できれば良いのですが、補修が現実的ではなかったり、過分な費用がかかる場合には損害賠償請求などの問題になってきます。

 昔の民法ではこのような責任を「瑕疵(かし)担保責任」と言っていましたが、現在の民法では「契約不適合責任」と言います。契約で約束した内容、性質、量などを備えていなければならないというものであり、これらが満たされていない場合に契約不適合責任を負うことになります。

 ただ、この問題はあくまでもいったん完成した後の問題です。 

 

 これに対して、建築中の段階で、すでに欠陥があることが判明した場合はどうでしょうか。

 請負契約というものは、民法の定めにより、「仕事の完成」が必要とされています。

 建物建築もこの請負契約であり、契約上の義務を果たしたと言えるためには、「建物の完成」が必要となります。ここでいう完成とは不備や欠陥がないことを意味しているのではなく、”工事工程の完了”を意味します。つまり、予定されていた工事工程が完了すれば一応完成したものとして扱い、完成後の不備や欠陥は、上述の通り、「契約不適合責任」問題として補修等を求めていくことになります。一方、建築工事中に欠陥が発覚した場合には、そのままでは建物を完成させることができませんので、その欠陥を補修するか、時には工事をやり直して完成させなければいけません。

 欠陥が直近の工程のものであればやり直しも難しくないのでしょうが、根本的な欠陥が発覚するとゼロからの建て直しとなります。

 大きな建物の建築中にそれほど大きな欠陥が見つかって建て直すなどということ自体は通常あまりないことですが、最近、大手建設会社が建設中のビルについて、精度不良が発覚し、ビルを立て直すことになったという報道がありました。


 

「大成建設、前代未聞「ビル工事やり直し」の内幕(高層ビルの工事で虚偽報告と精度不良が発覚)」(梅咲 恵司 : 東洋経済 記者)

 

一部抜粋 

 

「スーパーゼネコンの大成建設は3月16日、北海道札幌市で建築中の高層複合ビルにおいて、鉄骨の精度不良と発注者への虚偽申告があったことを公表した。発注者であるデベロッパーのNTT都市開発が今年1月に現場を視察した際に、不審な点に気づいた。これを発端に、施工不良と数値の改ざんが発覚。建物の鉄骨部分でおよそ80カ所、コンクリートの床スラブで245カ所の精度不良があった。

地上26階(高さ約116メートル)、地下2階のこの高層ビルには、ホテルやオフィス、商業施設が入居予定。だが、発注者が定めた品質基準を満たしていないため、今回、地上部分の鉄骨を解体して建て直す。高層ビルは2024年2月に竣工予定だったが、2026年6月末に延期される。」 



 

 報道によると、すでに15階まで鉄骨が組み上がっていたとのことであり、非常に大規模な工事をやり直すことになります。当然ながら、工事のやり直しに必要な人的・物的負担、費用は莫大なものとなるでしょう。しかし、まさに契約で定めた内容を満たすものになっておらず、建築中に発覚した根本的な欠陥ということで、建て直しをするほかなくなりました。

 

 まさに前代未聞のことですが、ここまで根本的な欠陥が発覚した状態では工事を続けても建物が「完成」したとは評価しがたい上、もしこのまま強引に「完成」させたところで、もはや補修はできないような欠陥ですから、いくら損害賠償という名目のお金で解決しても、その建物自体社会的にも無価値なものになりかねません。NTT都市開発にとっては、建築中に発見することができてよかったでしょう。また、この場合、工事にかかる費用は当然大成建設側が負担することになりますが、NTT都市開発はさらに工期の遅れに伴う損害についても損害賠償請求をすることが法的には可能です。大成建設側の責任は自社も認めるところでしょうし、相当額の支払いをすることで和解して事態を収めることが予測されます。

 

 このように、建物の請負契約においては、建物の完成前と後で法的な処理が異なることに注意が必要です。