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著作権の基本のキ〜編み物YouTube訴訟〜

1 編み物をめぐるYouTubeの攻防訴訟ニュース

 2020年8月20日に、著作権に関連するこのようなニュースがありました。

 

「著作権侵害通知の「乱用」巡り、編み物ユーチューバー同士が争い 京都地裁初弁論」(毎日新聞)

以下、一部引用。

「動画投稿サイト「ユーチューブ」で、著作権侵害の通知制度の乱用により編み物の投稿作品を不当に削除されたなどとして、富山県の40代女性が京都市の40代女性ら2人に慰謝料など110万円を求める訴えを京都地裁に起こしている。19日に第1回口頭弁論があり、被告側は請求の棄却を求めた。この通知制度を巡るトラブルに詳しい原告側の代理人弁護士によると、全国でも珍しいユーチューバー同士の訴訟という。」

 

 以前からSNS上でも見かけたことのあるYouTubeにおける編み物を巡る問題でしたが、ついに訴訟になったようです。

 ただ、この訴訟自体は著作権侵害の裁判そのものではありません。

 

 というのも、経緯として、この裁判の原告となった方がYouTubeに投稿していた動画について、被告が著作権侵害を理由としてYouTubeに通報し、YouTubeが通報があったことを理由にこの動画を削除していました。原告は、著作権がないのに、このような不当な通報をされて動画を削除されたとして、損害賠償を請求しているのです。

 

 そのため、編み物の編み方や作品に著作権が認められるかどうかは直接の問題とはなっていませんが、通報が不当であったかどうかという問題に関連して問題となる可能性が高いでしょう。

 

 このような事例も踏まえ、著作権の基本のキについて、解説してみたいを思います。


2 表現された創作物を国が保護する著作権

(1)著作権法が保護している著作権制度はどのようなものか??

 日本の著作権法は、著作物を創作した著作者に自動的に(※特許や商標のように申請などは不要)著作権を取得させることにしています。

 すなわち、①著作物(=思想感情を創作的に表現したもの)について、②それを創作したor著作者から権利を譲り受けた著作権者が、③死後70年or公表後70年独占できる権利です。

 

 著作物を創作すれば、その時点で、何の手続きもなしに発生することが大きな特徴です。

 例えば、私が今、絵を描けばこの絵の著作権が発生しますし、短歌を詠めばその著作権が発生します。これは上手いとか下手とかは関係がありません。パクリはいけませんが、独自の表現でさえあれば著作権は発生します。

 そのため、何が著作物と判断されるか、その著作物の著作権者が誰であるか、当然に判断できる場合も多いですが、微妙なものになれば必ずしも確定していません。そのような場合には、著作権侵害が問題となり、裁判で判断されないと確定しません。

 

 ここで独占できる権利とは、

❶絵を複製したり、❷音楽を上演・演奏したり、❸映画を上映したり、❹写真をwebにアップしたり、❺絵を展示したり、❻映画やゲームのDVDを販売・レンタルしたり、

❼小説を公表したり(しなかったり)、作者として名前を載せるよう求めたり、内容を不当に変更されたりしない人格権

です。

 

 このうち、❶〜❻が狭い意味での著作権=著作財産権と言い、権利として人へ譲ることができます。

これに対して、❼は著作者人格権といい、著作物を創作した著作者にずっと残り、人へ譲ることはできない権利です。

 

 これらを前提に、著作権侵害がどういうものかというと、

❶他人の著作物について

❷その保護期間が終わる前に、

❸著作権者の許可もなく、

❹「引用」などの法律上許される場合でないのに、

❺その著作物をもとにして、

❻同じまたは類似のものをつくること

を言います。

 

例えば、人が撮影してブログにアップしている写真を勝手に、自分のブログで自分のものとしてアップすれば、当然に著作権侵害にあたります。

 

他人の著作物を利用できる場合としては、まず、②保護期間が満了している場合です。この場合、いわゆる「パブリック・ドメイン」として、誰でも利用できるようになります。

例えば、クラシック音楽や昔の文学小説や映像作品なども複製して・販売できるようになります。

例えば、著作権の保護期間が満了した小説を自由に読める「青空文庫」、100円ショップで売っている初期のディズニーの白雪姫やピノキオのD V Dなどもその例です。実は、初期の原作品としての「くまのプーさん」も著作権の保護期間は満了しています。ただ、あくまで初期に発表された原作品である「くまのプーさん」の文章のみの話であって、その後に書かれた有名なくまのプーさんの絵はまだ著作権は切れていません。

 

3や④に関することは後ほど書きます。

 

このような②〜⑤にも該当するにもかかわらず、

著作物をもとに似た作品を作れば著作権侵害となります。

あくまでもパクりの場合だけが対象で、万が一偶然似てしまったと言える場合は侵害にはなりません。

 

この全体像を少しおさえておくと良いでしょう。 

(2)どういうものが「著作物」に当たり、「著作権」を取得するのか??

 「著作物」については、著作権法上、「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義されています。

 創作性がなく、ありふれたものであれば著作権は認められませんが、何らかの個性があらわれてれていれば著作権が認められます。

 ただ、表現の形式によってはそもそも創作性が現れにくいものもあります。

 例えば、キャッチコピーなどの言葉の著作物については、ある程度バリエーションも限られており、言葉を独占させることも妥当でないため、簡単には認められません。「インスタ映え」などの簡単な言葉にも著作権は認められません。

 

 著作権法には、著作物の例として、言語、音楽、舞踊、絵画などの美術、建築、地図などの図形、映画、写真、プログラムなどが挙げられています。ただ、例えば、振り付けなどは元から方表現方法が限られており、一般的な振り付けでは著作権までは認められません。また、建築の著作物も、実用的なものでもあり、一般的な建築物には著作権は認められません。これらについて著作権を認めてしまうと、独占が許されることになり、他の人たちが使えないとなると社会的にも弊害が大きいという面があります。

 

 このように一般的には何らかの個性があらわれている創作物は著作物にあたります。

 ただ、その種類などの性質上、表現の幅にもともと制約があり、安易な独占を認めるべきではない場合には、高度な創作性が求められる場合があります。

 

 職務上作成された著作物は会社が著作権を取得することもありますが、それ以外は原則として著作物を創作した者が著作権を取得します。

 

(3)著作権の譲渡とライセンス契約に関する令和2年著作権改正ついて

 第三者が他人の著作物を利用するための方法として、上記③のとおり、その著作物利用の許可を得るか、いっそ著作権ごと譲渡を受けることが考えられます。

 

 著作者など著作権を取得した者は、第三者と契約をして著作権そのものを譲渡することができます。

この場合、譲渡した著作権者は著作権自体を失うことになります。

ただし、その場合でも、著作者人格権は著作者に残ります。そのため、著作者は、著作者人格権(公表する権利・指名の表示を求める権利・不当に改変されない権利)に基づく権利行使はなおも可能と言うことになります。そこで、著作権譲渡契約を締結する際には、併せて著作者人格権を行使しない旨の合意もしておくことが一般的です。

 

 また、著作権そのものを譲渡せずに、著作物の利用を一定の範囲で認める契約をして使わせることが可能です。

 通常、対価を得てこのような契約をします。このような契約がいわゆる「ライセンス契約」です。

 例えば、著作権者以外の第三者によるアニメのグッズ販売なども、この許諾をもらってしているものです。

 

 ただ、この著作権のライセンス契約には、これまで大きな落とし穴がありました。

 というのも、ライセンス契約を締結していても、著作権者が著作権を譲渡してしまうと、この許諾されていた利用権を新しい著作権者に対してこの許諾されていた利用権を主張することができなくなっていました。つまりせっかくライセンス契約までしてグッズ販売をしていても、著作権者が変わると、突然、販売ができなくなるわけです。

 もちろんこれに対してはこれまでも、ライセンス契約の中で、著作権譲渡しないように合意したり、様々な予防策が取られていましたが、いずれも完全な方法ではありませんでした。

 

 このような著作権法の規定が令和2年6月5日に改正されることになりました。これが”著作物ライセンス当然対抗の制度”と呼ばれるものです。

 すなわち、ライセンス契約を締結した後に、著作権者が著作権を第三者に譲渡しても、許諾されていた利用権をその新たな著作権者に対しても主張し、なおも利用できることになるのです。

 このような改正は、令和2年10月1日から施行されます。

 注意すべき点として、この施行日前に締結していたライセンス契約であっても、施行日後に著作権が譲渡された場合には、許諾されていた利用権を新しい著作権者に対して主張することができます。

 

 実務的には非常に意味のある改正ですので、ご注意ください。 

 この法改正について、より詳しい内容を知りたい方は、定評のある以下のサイトでご確認ください。

 『令和2年著作権法改正で捗るライセンス契約(当然対抗制度)』(STORIA法律事務所)

 

 なお、著作権の利用許諾に関して、管理団体がある場合、そこに申請をして許諾料を支払い、利用できるようにすることも可能です。その典型が音楽著作物に関しての著作権管理団体JASRACです。

 クラシック音楽などでなく、JーPOPを使う場合には申請をしてお金を払い、許諾を得ておくことが無難です。

   JASRACのHPに、どのような場面で使うかによって申請方法など詳細に記載されていますので、詳しくはHPをご確認ください。

 

(4)「無断転載禁止」の表記と法律上の引用について

「無断転載を禁止します」という表記はあらゆるところでみかけます。

新聞記事やHPにもよく記載されています。

 

 このような記載があれば、少なくとも創作者が無断で使うことを許していないということは明らかになりますが、これを書いていようと、書いていまいと、法的にはあまり意味はありません。

 

 なぜなら、もしそれが著作物に当たるものであれば、著作権が発生し、第三者が無断で利用することは原則として禁止され、仮に「無断転載禁止」と書いていなくても著作権侵害に当たりうるからです。

 

他方、「無断転載禁止」と書いていて、著作権が発生している場合でも、法律上の「引用」に当たる範囲は他人の著作物を利用することができます。著作権法が定めた「引用」の要件を全て満たせば、「無断転載禁止」とされていても、それは著作権侵害には当たらないことになります。

 

その要件が画像記載の①〜⑤です。

これらを全て満たせば、著作権者が禁止していても、著作物の利用がその範囲で認められることになります。

この要件からも分かる通り、ざっくりと言えば、あくまでも第三者の著作物であること(自分の著作物ではない)をはっきりさせた上で、著作物のうちの一部分だけを勝手に内容を変えることなく、そのまま使う場合です。

著作権法は基本的に他人の著作物に便乗して利得を得ることを許していませんので、便乗するような形態は許されないわけです。

 

この「無断転載禁止」と「引用」の関係は誤解している方も多いので、整理して理解しておくと、良いでしょう。

人の著作物を紹介したい場合など、引用の要件を考慮して出典の明記などをしておくことが大事です。

 


3 編み物の著作権とYouTubeへの通告

 これまで見てきたように、著作権は、何らかの個性があらわれている創作物において認められます。

 編み物の場合、直感的には何らかの個性はあらわれそうにも思えます。

 ただ、よくよく考えてみると、編み物の編み方というのは、その性質上、それほど自由度の高いものではなく、かなり限られているのではないでしょうか。もし従来のものとは少し変わった編み方を考えたとしても、そのアイデア自体が保護されるわけではありません。従来の編み方に多少の工夫があっても、編み方そのものに著作権を認めると、その編み方はその人しかできなくなり、独占されることにもなります。

 このように考えると、編み方そのものに著作権を認め、独占を許す場合というのはかなり限定的でしょう。容易には認められないと思われます。

 

 もちろん編み物を使って、アーティスティックなデザインを表現したり、新しいキャラクターになるようなものを創作すればその表現自体に著作権が認められることにはなります。

 もし仮に著作権が認められるとしても、そのマネをして作られたと言えるものか、問題になる可能性もあります。

 

 このような著作権判断の感覚、リーガルマインドを持てていると、ものが変わってもご自身で少し判断しやすくなるかもしれません。

 

 この観点で、上記のニュースを見ますと、YouTubeへの権利新開の申告は、著作権に基づく正当なものではなかった可能性が相当程度あります。その場合、YouTubeの仕組み(通告があれば原則動画の視聴をできなくする)を不当に利用して、相手の動画を観れなくしたと認定される可能性があり、これが不法行為に該当する余地があります。

 

 上記毎日新聞の記事によると、以下のように記載されています。

原告側の加藤幸英弁護士(愛知県弁護士会)によると、編み物の作品や編み方に著作権を認めた判例はない。ユーチューブは虚偽の侵害通知をしないよう投稿者に求めているが、米国では虚偽通知が問題になっているといい、「自動で動画を削除する仕組みも問題だ」と指摘する。」

 

 このようなプラットフォームの仕組みを利用した権利侵害の争いは今後一層増えていくでしょう。

 権利侵害そのものではなく、権利侵害の申告自体が問題になる裁判例はまだないので、判決に注目です。

 


(追記)新たに、誰かの著作権を侵害しない方法+自分の著作権を守る術というテーマでYouTube(弁護士松田昌明のLawTube)に【前編】【後編】をアップしましたので、こちらもご覧ください。


何でも相談できるパートナーに!

 いまだに弁護士というと、個人の方はもちろん事業者の方々にも敷居が高く思われがちです。

 せっかく顧問弁護士がいても、「顧問弁護士には相談しにくい」という声すらよく聞きます。

 いい意味で、「弁護士らしくない弁護士」でありたいと思っています。

 今更ながら、このような場で広く発信し、誰かの力になれる『ご縁』が生まれることを願い、このようなホームページを作りました。

 

 あなたが今悩んでること、困ってること、ぜひ教えてください。

H13.3 清風高等学校卒業

H18.3 京都大学法学部卒業

H20.3 同志社大学法科大学院卒業

H21.12〜 六甲法律事務所

R2.4〜弁理士登録

兵庫県弁護士会法教育委員会、同子どもの権利委員会副委員長、同修習委員会副委員長

同志社大学法科大学院アラムナイ・アソシエーション寒梅会会長

関西学院大学非常勤講師、京都大学法科大学院非常勤講師

兵庫県児童虐待対応専門アドバイザー、神戸市いじめ問題対策審議会委員

 弁護士/弁理士 松 田 昌 明

(兵庫県弁護士会所属)    

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