改正民法下における賃貸物件の返還と原状回復の範囲

 マンションやオフィスを借りる際には、借りる人は、貸す人との間で賃貸借契約を結びます

 

 賃貸借契約というのは、何かを自由に使わせてもらい代わりにその対価としてお金を払い、契約が終われば返すというものです。

 

 なお、民法には、次の通り書いています。

(賃貸借)第601条

 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

 

 契約というものは、契約書がなくても、口頭でも成立します。ただ、不動産の賃貸借契約については親族などでもない限り、賃貸借契約書が締結されます。

 多くの場合、不動産の所有者は仲介業者に委託して借主をつのりますし、借主も不動産仲介業者を通じて賃貸借を締結します。

 

 賃貸借契約書には、通常、賃料、支払時期、賃貸期間、更新、敷金、解除事由、解約申し入れの条件などが記載され、契約内容となります。

 ただ、賃貸借契約を締結する時は、これから借りて使うわけですから、契約が終わって明け渡すことまでは通常考えないでしょう。

 しかし、明け渡しの時に、どこまでの原状回復をしなければならないか、契約で定まっていることがありますので、要注意です。

 

 貸主が返還する時に、どこまで借りた時の原状に戻さなければいけないのかについては、この2020年4月から改正された民法に明記されることになりました。

 ただし、これは、あくまでも契約書で取り決めをしていない場合に適用されるものです。契約書で取り決めがある場合にはそちらが優先されますので、注意が必要です。疑問があればあらかじめ指摘しましょう。

 

 改正された民法では次の通り規定されました。

(賃借人の原状回復義務)第621条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 

 

この条文において、重要なのは、()書きです。

すなわち、原状回復の対象から「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」が除外されています。これは対価として支払う賃料によって当然にまかなわれるべきものと考えられているからです。

 

これは改正される前から実務的に認められてきた考え方ではありますが、この度明記されるに至りました。

 

この原状回復の範囲についてはこちらのイメージ画像をごらんください。こちらは国土交通省のHPで公開されている「原状回復をめぐるトラブルとガイド」で明記されているものです。

 

賃貸期間が長引けばその分だけ、通常の使用に伴う損耗や経年変化も大きくはなります。その分、ここでいうAについては、原状回復義務を負わないことになります。他方、使い方次第で発生したりしなかったりするBについては基本的に損害賠償を負うことになります。

 

こちらの考え方を踏まえ、明渡時に敷金から差し引かれる原状回復費用の交渉をしましょう。

請求されている項目を確認し、それがこのような通常の使用収益や経年変化に当たるかどうかを慎重に考えましょう。

 

その際には、上記の「原状回復をめぐるトラブルとガイド」に詳しい例が書かれており、参考になります。

 

 

また、原状回復の費用を算定する場合、もし使用収益するための状態を保つために必要な必要費(民法608条1項)や物件の価値を高めるような有益費(民法608条2項)を支出している場合には、それを貸主に請求できる場合があります。こちらも請求漏れがないか確認し、あれば、領収書を提出するなどして、精算を求めましょう。

 

さらに、法律上「造作」と呼ばれますが、契約書に別の合意がなければ、貸主の同意を得て取り付けた場合、買取りの請求ができる場合があります。別の合意などがあり、法的な請求権としては認められない場合であっても、クーラーなど取り外して持っていける設備について、必要なものであれば、交渉して引き取ってもらうこともできます。

 

これらの交渉材料を用いて、少なくとも不当な扱いを受けないよう対策を取ることが大切です。