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改正民法で解く平成19年司法試験民法(答案例+要件事実)

※ 法曹志望者のため、YouTubeで民法の本質的理解につなげる動画「民法の地図」を始めました。

 私が知る限り、歴代の司法試験過去問の中でも、最も難問であり、かつ、契約に関することを一通り学べる超良問が平成19年度司法試験の民法(第2問の設問1)です。

 

 この年は、司法試験が開始されて、まだ2年目でした。まだ、民法と民事訴訟法を民事系としてまとめて4時間で解く時代でした。

 

 試験委員も受験生のレベルを把握し切れていなかったのでしょう。

 民法の問題は過去の司法試験でも、最も難しい問題となりました。

 ただ、実務的な要素も多く、契約や債権に関する本質的な問題をとらえ、網羅した良問だと思います。

 

 この問題を理解できると、契約や債権に関しての理解がかなり深まるでしょう。

 

 以前から、もともと作成していた答案メモがあり、改正民法で受験生の答案を添削することになったため、改正民法の内容にブラッシュアップして、こちらのブログにアップしておりました。

 

 今回、またこちらを題材に講義することになったので、さらにブラッシュアップし、平成19年の出題の趣旨や採点実感、平成30年の採点実感から一部を抜粋した上で、答案例を作成し、要件事実の完成度を上げました。

 

 もしこの問題を解こうとして、こちらにたどり着いた方は一度見てみてください。

ダウンロード
改正民法による平成19年度司法試験民法の答案例と要件事実
改正民法によるH19民法(答案例+要件事実).pdf
PDFファイル 759.9 KB

(追記)

 2月19日に、同志社ロースクールにて、解説講座をしました。

 その時に、口頭で説明した内容のうち、重要な点を追記しておきます。

 レジュメ自体にはあまり書いていない考え方の部分ですので、一読ください。

 

①まず司法試験を解く際には答案構成と書く時間に注意してください。

構成は40分前後でしょう。50分超えるとなかなか書き切れません。途中答案は最悪です。

基本的に構成で勝負が決まります。書き出してからの方針変更は大概自爆しますので、ご注意を! ②問題を読むにあたっては、事実関係はいったんとばして、設問そのものを読みましょう。

問いを先に読むことで、何について考えなければいけないのか、をある程度把握した上で、事実関係を読み進めることができます。

事実関係を何度も読み直す時間はないので、読みながらある程度重要度をチェックしていくをことが大切です。

 

また、設問への回答がずれないために、もし問いに「〇〇を踏まえて論ぜよ」などと検討事項に関する指示があれば、

それをそのまま答案構成の項目に「○○について」といれてください。

こうすることで書き漏れを防ぎ、整理した論述ができます。 ③H19の問題では、 設問を読んでも課題aとbへの回答ということしかわかりません。

そこで先に課題a.bの下線部を見ると、支払済みの200万の返還請求と18万の賠償請求を想定し、その反論を考えなければいけないことがわかります。

 

ここを読んでピンときて欲しいのは返還請求と賠償請求は、訴訟物=請求の根拠が違うということです。

 

そして、支払済代金の返還請求と言う時点で、

実は、545条1項の解除の基づく原状回復か、121条の2・1項の無効行為の原状回復ぐらいしか考えにくいことに気付くべきです(インプットとアウトプットを通じてそういう勉強をしておくことが必要)。また、損害賠償も415条か709条しかありえません。

 

民法の事例問題を考える時には、訴訟物=請求の根拠が何か、それがなり立つかから考えるのが基本です。

特に今回のような複雑な事実関係の元では、途中の状況について法律関係を整理するのは極めて難しく、頭がこんがらがります。

あくまで、結局、誰が誰に何が請求できるかを、論理立てて考えるのが最適です。 ④問いを確認したら、問題文のはじめに戻り、事実関係を整理しつつ読み進めます。

話が変わるナンバリングを意識しつつ、どこに何が書いてあるのかを整理しましょう。重要な事実をチェックしておきます。 例えば、申込みに対して確定的な返事をしなかったという事実からは申込に対する承諾がなく、この時点で売買契約が成立していないことがわかります。別のところで承諾をとらなければいけません。 また、損害賠償が問題になることを把握していれば、帰責事由が問題になることを想定し、その認定に使えそうな事実をチェックします。不可抗力と主張するための事実をピックアップします。 ⑤解答全般を考える時にとても大切なのは立場です。特に民事系の問題では、どちらの代理人として答えるかによっても、回答するポイントやバランスが変わってきます。

この問題では、あくまでYの代理人として検討を求められています。

そのため、Xの請求や主張は考えつつも、あくまで最終的にはYが勝てるような反論を考えないといけません。

Yの反論がしょぼければ、むしろ解答としては妥当でないということになります。 ⑥本件では、200万円の請求が545条1項の解除による請求であることは問題読めばすぐわかります。

そうすると、問題は解除原因です。

ただ、これも改正によって整理されていますので、

催告による解除541条と催告によらない解除542条の条文を、

全て読み返して、使えそうなのを探せばいいのです。

定期行為というのが思いつかなくても、条文を読み返して、+契約不適合564からの541を考えれば落とすことなく根拠条文に気付くでしょう。

そうすれば、541条、542条4号、564条→541条を想定できます。

 

あとは、各条文の要件を満たすか、順に検討していきます。

この時には、この要件を満たしそうな事実はないかという観点から、

当事者の言い分を参考に、事実を引っ張ってきます。

催告や解除の意思表示などに使える事実を引っ張ってきますが、その評価が分かれるため、裏を返せば反論にもなりえます。

⑦反論については、Xの主張を否認して評価を争うか(定期行為該当性、催告や解除の意思表示)、

別で法的な主張=抗弁をするかです。

抗弁としては履行遅滞には弁済期延長などが考えられます。 ⑧損害賠償については、Xとしては、請求する損害が通常損害か特別損害かを明らかにして主張します。

Yの反論としては、本件は通常起こりえない事故であって、不可抗力であり、Yに帰責事由がないことを強く主張します。

その上で、損害についてはその評価や特別損害の予見可能性などを争って反論します。 ⑨こうして全体をみていくと、 現行民法では、解除に対する帰責事由がない旨の抗弁や特定物の現状引き渡しによる弁済の抗弁が問題となる事案でした。

改正によってこれらが反論とならなくなりました。

改正民法のもとでは、 Yとしては解除を争いきることは難しく、

損害賠償に対する帰責事由がない主張や特別損害などの主張が実際の裁判では主要な争点になっていくことになるでしょう。 ⑩結局、これら全てが条文の法律要件と法律効果の組み合わせであり、

事例演習を通じて、その訓練をすることが大事なことがよくわかるかと思います。

極論を言えば、訴訟物がどういうものがありえて、この主張に法的にどんな有効な反論ができるかを、

全て理解して覚えれば何がきても怖くなくなるでしょう。