ハラスメントの実態〜女性弁護士自死事案第一審判決を踏まえて〜

 

 昨日、とてもショッキングなニュースが飛び込んできました!


 ある女性弁護士が就職した法律事務所の代表弁護士から性被害を受け、それを苦に自死されたということで、ご遺族が当該弁護士と弁護士法人を訴え、その判決が出たというニュースでした。

 同業ですが、そもそもこのような事案があったことすら知りませんでした。

 

 記事の一部を引用しますと、以下の通りです。

 

 


 女性弁護士自殺、元弁護士会長による性被害認定 1億円超の賠償命令

奥正光 

 

 2018年に自殺した女性弁護士の両親が、所属する弁護士事務所の代表から繰り返し性被害を受けたことが自殺の原因だったとして、事務所と当時代表だった清源(きよもと)善二郎・元弁護士に計約1億7千万円の損害賠償を求めた訴訟で、大分地裁(石村智裁判長)は21日、元弁護士らに計約1億3千万円の賠償を命じる判決を言い渡した。


 あくまで1審判決の段階で、控訴の可能性も十分にありそうですし、判決としては確定はしていません。

 また、判決文自体は確認できていないので、あくまで報道ベースでの考察にはなることにご留意ください。

 

 まずは事案として、事実であれば同業者として絶対に許されない事案です。

 いずれにせよ、亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族にお悔やみを申し上げま

 

 報道の内容を見る限り、被告となった元弁護士も性的な関係自体を争っているわけではないようです。客観的な証拠等もあるのでしょう、被告はあくまで、自然な「恋愛関係」にあったと主張しているようです。

 

 ただ、一般論で言えば、セクハラ事案において、加害者が「恋愛関係にあった」と主張するのは定石ではあります。むしろ性的な関係を否定しきれないのであれば、これを主張するほか争いようはありません。これは訴訟戦略上の問題だけではなく、実際、驚くべきことに加害者が本気で「恋愛関係」にあったと思い、被害者は性的行為を強要されたと感じているケースもあります。第三者から見れば、雇用する側と雇用される側という圧倒的な上下関係にある以上、段階を踏んで誘われる限り、一線を引いて断ることは非常に難しくなります。雇用する側はこのような力関係に対する意識が欠けていることが多く、「誘いを拒否しない」=「好意をもっている」と思い込むことがあります。しかし、実際に恋愛関係とハラスメントによる性被害とは明確に区別されるべきものです。現実には雇われる側は簡単に断れるわけもなく、雇用する側は常にこの意識を持って行動しなければなりません。

 

 上記の裁判でも、「恋愛関係」という主張がされたようですが、判決では、女性の友人らの証言や遺書の内容などを踏まえ、「元弁護士が自らの性的な欲求を満たすために女性との関係に及んだと評価されても致し方ない。恋愛関係に基づく性的関係であったと認める余地などない」とキッパリ否定されているのが印象的です。

 

 また、このような自死事案では、必ずと言っていいほど、自死との因果関係が争点となってきます。

「いじめ」による自死事案でも同様に因果関係が問題となりえます。これについては別の裁判について、大津中2いじめ自死裁判の検証にて考察しております。

 本人が何を苦に自死を選択されたかは、心の中のことですので、形跡がはっきり残っていなければ推測になってしまうため、争いが起きやすいことになります。

 ただ、これについても、上記の裁判では、「(女性は)上司から性的被害を受け、退所を含め他に方途を見いだせない状況下で、自死を選択せざるを得なかった」と、性被害との因果関係も認めたようです。

 被害者は遺書をのこされていたようですし、そこに自死を選択した理由・原因を明記していた可能性があります。特に弁護士の方ですので、もしかしたら、自分が亡くなった後のこのような裁判を想定していたのかもしれません。想像ですが、こういう形でも一矢報いようとされたのかと思うと心が締め付けられる想いです。

 

 この事案に限りませんが、自死するぐらいならハラスメントを受けている職場を「辞めればよかったのに!」と思われる方もいるかもしれません。

 ただ、継続的にハラスメントが横行しているブラック企業に勤めている方も同様ですが、精神的に追い詰められると、うつ的な症状になり、視野はどんどん狭くなります。本来、被害者であるはずなのに、自分自身を責め続けることにもなります。また、仕事の多忙さや精神的な疲弊などが絡み、加害者側が意図してかどうかはともかく、物理的・精神的に”人間関係からの切り離し”が行われることも多くあります。カルト宗教やマルチ などでも行われる手口ですが、家族、友人、同僚・同業者など相談したり精神的支えとなっている人から引き離すことでより強い洗脳状態に陥れることになります。こうなると、退職という選択をとることは事実上不可能であり、今を続けるか、今から逃れるため「自死」かしか、選択肢がなくなってしまうのです。

 

 本件はまだ確定前であり、報道ベースではありますが、性的な関係をもったことと自死したことは間違いないようです。

 このような事案が二度と業界でも起こらないよう考えていかなければいけません。

 弁護士会としても、重大な問題と受け止めていく必要があるでしょう。相談窓口はありますが、仮に重鎮弁護士からハラスメントを受けた場合に、重鎮弁護士と繋がりが深い弁護士らが多くいる弁護士会に相談できるかという問題があります。なかなか機能させることは難しいでしょう。このような問題意識をもって、実際に相談できる体制を整えていく必要があるでしょう。

 私にできることも限られますが、個人として、少なくとも周囲の人たちの異変には気付けるよう、ハラスメントの構造やメンタルヘルスについても学び、より意識を高めていこうと強く思いました。