2026年2月3日、退職代行サービス「モームリ」を運営する会社の社長らが弁護士法違反の疑いで逮捕されたというニュースが入ってきました。
退職代行サービスは、実際に「辞めたいのに辞められない」という労働者の切実な悩みに応えるサービスとして注目を集め、現在では一部の弁護士も業務として担う一つの分野になってきました。
個人的には、会社による退職代行サービスそのものの印象は後述する弁護士法違反の可能性が常に潜在しており、よくありませんが、とはいえ一部本当にブラックな会社で洗脳に近い状態にあり、退職の意思すら明確に伝えられない状況があるのも事実です。そのような方の力になる点においては、一定の社会的意義もあると理解しています。より大きな観点から言えば、国民にとって有害なサービスは論外として、新規事業をどこまで既存の法律で取り締まるかという観点も考慮すべき場合はあるでしょう。
今回の事件は退職代行サービスの運営のあり方に大きな警鐘を鳴らすものです。
ただし、あくまで逮捕された本人らは否認しているところであり、あくまでも逮捕された段階であることから、無罪推定の原則も踏まえ、弁護士として、法的な側面とポイントを中心に整理します。
「『モームリ』運営会社 社長ら逮捕 弁護士法違反疑い 容疑否認」
(2026年2月3日午前8時53分(2026年2月3日午前11時56分更新)NHK配信)
報道によると概要は以下のとおりです。
「退職代行サービス、「モームリ」を運営する会社の社長ら2人が、依頼者を弁護士に紹介して違法に報酬を得ていたとして、弁護士法違反の疑いで逮捕されました。警視庁は、弁護士側から依頼者1人あたり1万6500円の紹介料を受け取っていたとみて詳しく調べています。2人はいずれも容疑を否認しているということです。」
退職代行サービスと弁護士法違反の可能性
退職代行サービスをめぐる法的問題としては、一般論として、主に以下の2つの側面があります。
①非弁行為(72条)の可能性
法律事務は弁護士の独占業務とされており(弁護士法第1条、第3条)、弁護士資格のない業者が、報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことは法律で禁止されており、これに違反した場合刑事罰の定めまであります。業者が労働者に変わり、退職の意思を伝えるだけであれば、法律事務とまではいえず、使者として認められるのであるが、それを超えて、何らかの交渉を行うことは許されません。
弁護士法(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
②非弁提携・あっせん(27条)の可能性
弁護士でない非弁業者から事件の紹介を受けたり(弁護士法第27条)、そのような者を利用したり(弁護士法第27条、弁護士職務基本規程第11条)、報酬を分配したり(規程第12条)、紹介料を払ったりもらったりすること(規程第13条)が禁じられています。
弁護士法(非弁護士との提携の禁止)
第二十七条 弁護士は、第七十二条乃至第七十四条の規定に違反する者から事件の周旋を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。
報道によると、今回の事案では、上記②に関して、「広告費」などの名目で弁護士側から1人あたり約1万6500円の紹介料を受け取っていたとされています。これが事実であれば、弁護士法違反(あっせん)」にあたる可能性があります。
ただ、率直に言えば、会社側も弁護士側も、刑事罰を受けるリスクがありながら、1人あたり約1万6500円の紹介料のためにそのリスクを犯すかという疑問もあります。
本件では被疑者らは逮捕されていますが、「弁護士法違反になるとは思わなかった」と否認しており、まだ有罪であることは確定していません。検察官が起訴するかどうか、裁判で有罪になるか、まだわかりませんので、ご留意ください。
特にこの件では被疑者らの認識など主観的な事情が重要な問題になってきます。捜査機関としても一定の証拠は確保しているでしょうが、まだ有罪の見込みが高いとも言いきれないでしょう。
なお、逮捕に関しては、刑事訴訟法上、「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」と「逮捕の必要性」がある場合に、原則として裁判所の許可(令状発付)を受けてはじめてできます。
特に逮捕の必要性としては、証拠隠滅のおそれや逃亡のおそれが必要になりますが、ここまで認められるかどうかは微妙と言わざるを得ないでしょう。
すでに会社の事務所の捜索も数ヶ月前に完了しており、今更、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがあるか、見せしめ的に見える面もあり、ここは安易に賛同すべきではないように思います。
このように今回の件は、同種サービスに影響こそあれど、退職代行サービスそのものを否定するものではありません。
ハラスメントが横行するようなブラック企業にいる労働者にとって、退職代行サービスは今後も重要な役割を果たしうるでしょう。ただ、弁護士法に抵触するリスクを秘めたサービスではあり、無資格者による交渉やあっせん紹介料がサービス料に転嫁され、利用者が損失を被るようなケースもあるでしょう。
利用者としては、法的な紛争になりうる場合はもちろんですが、退職代行のみの場合もなるべく弁護士本人が対応するところに委任することをオススメします。