
子どもや教育に関わる事業者の皆様にとって、影響必至の制度が2026年12月25日から施行されます。
それが子ども性暴力防止法に基づく、いわゆる”日本型DBS”です。
日頃、子どもの権利を守るため、兵庫県のスクールロイヤーや児童相談所のアドバイザーを担っており、先日は、 Softbank(法人向けビジネスブログ)「日本版DBS施行目前。民間教育事業者が認定前に整理すべき「現場の棚卸し」」の記事も監修させていただきました。
あらためて子どもに関連する問題に通じている弁護士の立場から、これを整理します。
まず経緯を確認しておくと、2024年6月に「こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)」という法律が成立し、2026年12月25日からいわゆる「日本版DBS」が施行されることが決まっています。
本制度は、子どもを性犯罪から守るための画期的な仕組みであると同時に、事業者にとっては採用や労務管理、そして情報管理において極めて高度かつ厳重な対応が求められる制度です。
学習塾や保育園を運営している事業者にとっては非常に影響の大きい制度であり、施行前からの理解や就業規則等の整備などの準備が不可欠です。
施行まで9ヶ月をきり、準備を進めておくべき段階です。また、新年度になり採用シーズンにもなりますので、意識的に対策を進めましょう。
1 「日本版DBS」導入の背景
こども家庭庁の報告によれば、若年層(16〜24歳)の4人に1人以上が何らかの性暴力被害に遭っているとのことです。
そして、性犯罪では被害者が若年であればあるほど、精神的な影響も大きくなるおそれがあり、極めて深刻な問題です。
特に教員や保育士等が加害者となるケースでは、子どもに対する「支配性・継続性・閉鎖性」といった避けがたい環境的要因が悪用されることになります。一歩間違えればそのリスクが大いにある状況です。動機・機会・正当化という三要素が揃えば不正が起きると言われますが(不正のトライアングル)、それらがそろってしまっているのです。
これまで教育や保育の現場で性犯罪が起きても、加害者は別の地域や事業者へ再就職することができていました。再び子どもと接する業務に就くことを防ぐ手立ては不十分と言わざるを得なかったのです。
教員に関して言えば、教育委員会がデータベースを活用して過去の懲戒免職歴がないか確認できるシステムを設けてはいます。データベースには、子どもへのわいせつ行為で免許を失効した教員について、失効理由や原因となった内容などが過去40年分登録されています。しかし、懲戒免職となって教員免許を失効しても、3年たてば再取得が可能となりますし、免許を持たない職種へ転職すれば子どもに関わる職種へ就くことは可能でした。
そこで、子どもに接する業務に従事する者の性犯罪歴(前科)を確認する仕組みとして、日本版DBSが導入されることになったのです。
2 「日本版DBS」制度の対象事業者と4つの措置
この法律は、事業者に対し、従事者の性犯罪歴の確認を義務付ける、または、認定制度を通じて性犯罪歴の確認を可能にするものです。
まずは対象となる事業者を確認し、とるべき措置をみていきましょう。
【対象となる事業者】
①義務対象事業者(認可施設等)
学校(幼稚園〜高校)、認可保育所、認定こども園、児童養護施設、障害児施設などは必ず制度を利用し、法律上求められる措置をとらなければいけません。
②認定対象事業者(民間教育・保育等)
学習塾、スポーツクラブ、放課後児童クラブ(学童)、認可外保育施設などは国の認定を受けることで制度を利用できます。
この場合、認定を受けた事業者は、国が定めた「認定事業者マーク(こまもろうマーク)」を広告表示することができるようになるメリットがあります。
すなわち、安全な事業者であることを保護者に向けてアピールできます。逆に言えば、認定を受けていない事業者は、安全対策が不十分とみなされ、市場から淘汰される可能性があります。はじめから認定をとらない場合であっても、同業他社の状況は注視しておく必要があるでしょう。
特に教育熱心な保護者が多い神戸や阪神間エリアでは、事業者の安全管理体制に対する保護者の視線は厳しくなります。他社がこの認定をとり始めた際に未対応であることが経営リスクにつながることを意識しておきましょう。
【対象事業者に課せられる4つの措置】
①安全確保措置
子どもからの相談体制の整備、面談やアンケートによる被害の早期把握などの措置をとる義務があります。
②性犯罪前科確認措置(DBS照会)
こちらが中心的な内容になりますが、こども家庭庁への照会を通じて、従事者(新規採用者および現職者)に性犯罪歴がないかを確認する義務があります。
③防止措置
もし性犯罪歴が確認された場合、その従事者を子どもと接する業務から外す(配置転換する)等の措置義務があります。
④情報管理措置
取得した性犯罪歴などの機微な個人情報を厳格に管理する義務があります。
【こども家庭庁の資料より抜粋】
3 弁護士が懸念する法的リスクと対応のポイント
この制度の運用は、事業者にとって、大きな法的リスクがあります。
単に「前科を調べればいい」という単純な話ではないことに注意しましょう。
特に以下の2つのリスクに留意しましょう。
❶労務トラブル(採用時、配置転換や解雇)のリスク
採用する際には、子ども家庭庁に照会をし、その照会の結果を見てから採用を決める必要があります。照会の結果が出る前に採用内定を出す場合、「性犯罪歴が判明した場合は内定を取り消す」旨の条件付き採用にするなど、法的に有効な書面(誓約書・労働条件通知書)にしておかなければ採用内定を取り消すことが法的に違法になるリスクがあります。
かといって、性犯罪の前科が判明した状態で、子どもに接する業務に就かせるわけにはいかないため、それ以外の業務をしてもらうことになりかねません。
他方、最も難しいのが、現職の職員に性犯罪歴が見つかった場合の対応です。
法律は「子どもに接しない業務への配置転換」を求めていますが、小規模な事業者でそのような部署がない場合どうするか、あるいは解雇が可能かという問題が生じます。不当解雇として訴訟になるリスクを避けるためにも、法律の施行前に就業規則の整備が不可欠です。
❷プライバシー情報の漏洩リスク
性犯罪歴を含む前科に関する情報は「要配慮個人情報」の中でも極めてセンシティブな情報です。
万が一、この情報が社内で漏洩した場合、対象者への差別や権利侵害となり、事業者が損害賠償請求を受ける可能性があります。法律でも漏洩には罰則が設けられています。
これまで通常民間の業者が扱うことがなかった情報ですので、厳重な情報管理をとりいれましょう。
このようなリスクを考えると、2026年12月の施行を待っていてはいけません。
トラブルを防ぐために、以下のような早めに対策や準備を進めましょう。
①採用フローの見直しと誓約書の活用
法律の施行前であっても、採用選考時に「性犯罪歴がないこと」を確認する誓約書をもらっておく運用を始めておきましょう。心理的にもリスクがある人物の採用を未然に防ぐことに繋がります。また、制度開始後に性犯罪歴の照会をして、万が一前科ありとなった場合、採用時に虚偽の申告をしたことにはなるので、処分等をする根拠の1つに活用できます。
②就業規則・社内規程の改定
「性犯罪歴が確認された場合の配置転換」「配置転換できない場合の解雇・退職規定」「個人情報の取扱規程」など、弁護士のチェックを受けた上で就業規則を整備しましょう。こちらは急務であり、必ず施行前に対応しておくべきです。
③従事者への研修と周知
全職員に対し、性暴力防止の研修を行うとともに、今後DBSによる確認が行われることを周知しておきましょう。このような取り組み自体が、性犯罪事案発生の抑止力としても機能します。
④民間事業者は「こまもろう」マーク取得の検討(認定対象事業者)
学習塾やスポーツクラブ等の経営者は、早期に認定基準を満たす体制を整え、信頼の証であるマーク取得を目指すべきでしょう。
このように「こども性暴力防止法」は、子どもを性被害から守るための新しいルール・制度となりますが、事業者にとって知らなかったでは済まされない重い責任を伴います。
子どもたちの笑顔を守り、かつ、貴社の事業を法的リスクから守るために、制度への理解を深め、早めの対策を講じていきましょう。
『うちの塾の今の就業規則で、前科発覚時の配置転換はどこまでできるか?』『内定取り消しの文言はどう書けばいいか?』といった具体的な相談から承ります。兵庫県や神戸市の教育現場に精通した弁護士が貴社の信頼を守るサポートをいたします。
”こども性暴力防止法”と「日本版DBS(性犯罪歴等確認制度)」について、
認定を取得するために、制度の具体的な内容や負担、そのために今からとっておくべき対策を整理するセミナーを開催することとなりました。
ぜひご参加ください。
「知らないでは済まされない日本版DBS ― “安心して関われる場”をどうつくるか?」
▼日時 :2026年6月18日(木)18:00〜19:30
▼場所 :QUESTION 4階 Community Steps
▼対象 :日本版DBS(性犯罪歴等確認制度)にご興味のある事業者、個人の方
▼定員 :50名
▼参加費:無料
▼申込:コチラ
※オンライン配信あり。ただし、質疑応答および個別案件相談は現地参加者のみとなります。
よくある質問(FAQ)
Q1:アルバイトの大学生もDBS照会の対象になりますか?
A:はい、対象となる事業者のもとで働き、子どもに接する業務に従事するのであれば、雇用形態に関わらず対象となります。 学習塾の多い神戸エリアでは、大学生講師や非常勤スタッフを多く抱える教室も多いかと思います。今回の法律では、正社員だけでなく、子どもと対面で接するすべてのスタッフ(アルバイト、派遣社員、委託業者等)が照会の対象に含まれます。
Q2:過去の性犯罪歴は、何年前まで遡って確認できるのでしょうか?
A:刑の種類によりますが、最長で20年前まで遡って確認が可能です。
具体的には、以下の期間(除斥期間)において、子ども家庭庁から「前科あり」との通知がなされる仕組みです。
拘禁刑(懲役・禁錮): 刑の執行終了後から20年間
執行猶予付き拘禁刑:裁判確定等から10年間
罰金:刑の執行終了等から10年間
Q3:現職のスタッフが「DBS照会(前科確認)」を拒否した場合はどうすればいいですか?
A:無理やり同意させることはできません。ただし、子どもに接する業務から外す方向での検討が必要となります。
DBS照会には本人の同意が必須ですが、もし拒否された場合、事業者はそのスタッフを「子どもに接する業務」に就かせないよう配慮する義務が生じます。 ここで問題になるのが、”DBS照会の拒否を理由に配置転換や解雇ができるか”という問題です。これは当然には許されない可能性が高いため、あらかじめ就業規則に「照会を拒否した際、または前科が判明した際の取り扱い」を明記しておくことが不可欠となります。
事前の備えがないまま不利益な扱いをすると、紛争に発展するリスクが高いため、ぜひ弁護士にご相談ください。
なお、こちらはこども家庭庁が実施した事業者向け説明会の動画です。あわせてご覧ください。

