昨年の抱負として掲げたものの、なかなかできなかった執筆作業。
今回は本気でやってみようと思い、まずは手始めに親族法の口語解説本を執筆してみました。
相続法バージョン「流れをつかみにくい民法・相続法の本質を最短で理解する本」
親族法は何となく知っている用語が多く、日常生活のイメージに引っ張られてしまうことから、かえって法律的な仕組みの整理がしにくいところがあります。
こちらの本では、全体の構造をまずはしっかりとおさえつつ、できる限り定義などをおさえながら解説するようにしています。
基本書などが省略している前提部分をできるだけ言語化しつつも、予備校のテキストなどよりはより本質的な理解ができるように工夫しています。
また、重要条文についてはできるだけそのまま引用しています。法律を勉強している方は条文を含めて読んでただき、法律そのものまで必要なければ条文部分は読み飛ばしていただければ素早く全体を読めるかと思います。
全63頁、販売価格は630円とさせていただいておりますが、Amazon Kindle unlimitedなら無料で読めますので、1ヶ月無料登録などもご利用いただき、お読みいただければ幸いです。
ここでは「はじめに」の部分と親族法の全体をイメージしていただく部分を抜粋して紹介しておきます。
以下、本書より抜粋。
はじめに
本書は、民法の中でも、後回しにしてしまいがちな親族法について、全体像やポイントを理解してもらうために執筆しました(相続法は続刊予定です)。
基本書よりはわかりやすく、予備校のテキストよりは本質的に!というモットーで書きました。実務的な事例も交えつつ、重要な条文は本文に引用しつつ、口語で解説しています。法学部生等で親族法を初めて勉強する方はもちろん、各種士業の資格試験勉強をされている方々にとっても参考になるのではないかと思います。
親族法の分野は、勉強ではおろそかになりがちですが、実務的には非常に重要です。士業にとっては日常的に取り扱うことになる超重要分野ですので、この機会にポイントを理解しておきましょう。
民法では、本来、1人の個人は独立した存在として独自に権利義務を有しているところ、親族法はその血族関係や法律婚などによる特別な関係性から、一定の法律関係が生じることを認めるものです。日本における法律婚や親子制度の詳細を法律によって制度設計しています。
実際、どのようになっているかを覚えていることはもちろん大切ですが、そもそも日本の法律
としての民法が、どのような趣旨でどのような制度づくりをしているのかを理解しましょう。本書はそのような観点から解説することを重視しています。
法律の勉強をするときに気をつけて欲しいことは、全体像を常に意識するということです。複雑な事柄や応用的な議論を学んでいると、つい視界は狭くなっていきます。意識をしていなければ、いわゆる「木を見て森を見ない」状態になりがちです。このようになってしまうと、結局、自分が学んでいる知識が、どこでどのように役立つのか、アウトプットへの繋ぎ方が分からなくなっていきます。常に全体の位置づけや手続きの流れなどの全体像をイメージしながら、今、どの部分を学んでいるかを意識しましょう。
全体的な部分(総論)を落とし込むことと個別の部分(各論)を落とし込むことは法律の勉強の両輪です。どちらか片側だけを完璧にしようとしても、不可能です。一方だけの理解は決して深まりません。あくまでも全体の理解と個別の理解を並行して進めていくことが望まれます。
このような観点から、本書では3ステップとして、以下の流れで解説します。
1 親族の全体の流れをイメージする
2 親族編の条文の構造を把握する
3 親族法15のポイントを理解する
このような流れで学ぶことで、全体像を常に意識しつつ、さらに短時間で複数回全体を回すような感覚で学ぶことができるのではないかと考えています。
法律の理解において、まず何よりも重要なのは、言葉(法律用語)の定義・意義を正確におさえることです。これが正確にできていない限り、法律はなかなか理解できません。特に、日常的に耳にする言葉であればあるほど、かえってそのイメージに引きずられ、正確な定義が曖昧になりがちです。
例えば、親族法の分野でも「親族」「婚姻」「親子」「親権」などは日常的にも耳にすることがある言葉です。親族法を学んだ方でも、何となくの意味合いは分かっていても、民法上の正確な定義まではおさえていないでしょう。むしろ、言葉の日常的、国語的な意味合いがわかっているだけに、それに引っ張られてしまうものです。その法律における意味、定義を正確におさえましょう(なお、全く同じ用語でも法律によって定義が異なることがあることにも注意してください)。その法律でのその法律用語の意味を理解できなければ、法律・条文の意味を理解するというのは当然無理な話です。
このことは、親族・相続はおろか、民法に限らないあらゆる法律に通じることです。定義を正確におさえるという意識は常に強く持ってください。
定義の理解の重要性に関連して、親族法の分野から1つ例を挙げておきます。
例えば、民法第818条には、「成年に達しない子は、父母の親権に服する。」と規定されています。このうち目立つ「親権」という言葉には日常的になじみもあり、何となくイメージすることができるでしょう。しかし、問題はそこだけではありません。
まず、「成年に達しない子」の意味はどうでしょうか。ここはそれほど悩まないでしょう。2022年4月1日から成年年齢の引き下げが施行され、18歳未満を意味します。正確にいえば、民法第4条「年齢十八歳をもって、成年とする。」の規定を組み合わせて読むことによって読解できるということです。
では、「父母」の意味はどうでしょうか。多くの方が、『そんなの決まっているじゃないか!』と思われるのではないでしょうか。しかし、ここでいう父母は決して血縁上の父母のこととは限りません。皆さんが自然とイメージした”父母”と完全にイコールでは結ばれないのです。ここが法律の読み方の最も注意すべき点でもあります。ここでいう「父母」とは、法律上の”父母”、特に民法上の”父母”を意味します。分解して言えば、法律上の母子関係が認められる個人と、法律上の父子関係が認められる個人を意味しています。具体的には、法律上の母子関係は「分娩」という事実によって確定されることになっているので、血縁上の実母とずれることはまずありません。これに対して、法律上の父子関係は、父母の婚姻の有無による推定(嫡出推定)や認知などの法律行為によって確定するため、血縁上の父(究極的にはDNA鑑定によって確定できる実父)とは必ずしも一致しないことになります。このように法律上の定義や意味合いについて、条文を組み合わせて読解していく思考過程を学ばないといけないのです。
結局、何が言いたいのかといえば、その法律におけるその用語の定義を押さえなければ、法律や条文を理解することは絶対にできないということです。それによって初めて法律の意味を論理的に理解し、読解できるようになります。これは親族法に限らないことはもちろん、民法、ひいては全ての法律に共通する読み方です。
ここで書いた内容について当たり前であって当然に意識しているという方はこちらの本を読む必要もないかもしれません。逆にもしその意識が不足していたということであれば、こちらの本を読みながら、親族法の理解を超えて、条文の読み方を身に付けていただけたら幸いです。
このような観点も踏まえつつ、何よりも条文にどのように書いているかを意識して勉強することが大切です。そこで、重要な条文は本書内でもそのまま引用するようにしています。ただし、もし予備試験や司法試験など、本試験で六法を使いこなせるかが問われる試験を受ける方は、できる限り、ご自身でも別途六法を引くようにしてください。この六法を引くと言う作業自体がとても大切です。本試験で六法を使いこなすための有効な訓練になります。
六法を引いて条文を読む際には、1つの文章として読むのではなく、「法律要件は何か?法律効果は何か?」という観点から、分析的に読む癖をつけてください。最終的に、出題された事案に法律を適用することができるようになるためには、この法律要件と法律効果の分析的理解が必須となります。
本書は基本的な理解に資するものであり、主としては法学部の試験や各種士業の短答試験に役立つものです。とはいえ、予備試験や司法試験の論文でも親族法や相続法が関連する問題が出題される可能性は十分にあります。本書で書いているような基本的理解こそ、予想外の出題に対応できる能力に繋がります。その観点からも本書を通じてポイントを理解していただけたら幸いです。
なお、本書では、特に潮見佳男先生の「民法(全)」第3版の整理を参考にしつつ、著者の言葉でより簡潔に解説しております。
Ⅰ 親族法の全体の流れをイメージする!
そもそも民法ではパンデクテン方式という形式がとられています。これは、簡単に言えば、全体に共通するルールはできるだけ前出しするというものです。そのため、民法は、全てに共通するルールとして総則編が前出しされています。総則には、民法の理解において最重要とも言うべき意思表示などがありますが、この意思表示は民法の全分野に共通するルールであるがゆえに、物権編や債権編などを通じて学ぶことで、初めて理解できる面もあります。
総則編の後は、物権編、債権編、親族編、相続編と続く構成になっています。各編の中でも、さらにその編における共通ルールは頭出しされ、各編の第1章として「総則」が規定されています。
親族編では、まずは法律的な意味での親族関係を明確にしています。親族というと、漠然と「親戚」をイメージするかもしれませんが、これとは似て非なるものです。「はじめに」でも述べたとおり、一般的な用語であっても、法律によってその意味、定義は異なります。一般的な用語としての「親戚」=親族と捉えず、民法が定める「親族」とは何かと言う観点から理解していきましょう。このような”法律ごとの定義をおさえる”という学び方は全ての法律を読むときの基本ルールですので、改めておさえておいてください。ここでは、「親族」=親戚とイメージしていると逆に配偶者や家族は含まないように思ってしまいますが、ここで言う「親族」には配偶者も含んでいます。その点で、一般的には家族を含まない親戚とは違う意味合いなのです。
親族の範囲を明確にした上で、民法では、その親族間での法的な権利義務関係を規定しています。その親族間の関係が密接であればあるほど、何らかの権利義務が生じやすくなります。特に重要なのは、「婚姻」と「親子関係」です。婚姻は法律婚とも言われますが、これは婚姻が法律によって保護されており、法律によって婚姻に結びつけられた効果が付与されることを意味しています。例えば配偶者の相続権などもその1つです。そして、未成年者との親子関係が重要です。親子関係の認定方法と未成年者に対する親権の意味合いが重要です。
このうち、婚姻による夫婦関係については、法律婚として婚姻がどのような場合に成立するか、無効や取り消されるべき場合はどのような事情がある場合か、そして、有効に婚姻が成立した場合に夫婦間にはどのような法律関係が生じるか、またその婚姻関係の解消を意味する離婚はどのような場合に認められ、どのような法的効果があるのかをおさえていくことになります。
次に、親子関係については、親子関係の前提として、どのようにして母子関係と父子関係を確定させるかが重要です。「はじめに」でも説明したとおり、母子関係は「分娩」と言う事実に基づいて確定しているので、問題になることはほぼありません(代理母などの場合にのみ問題となります)。これに対して、父子関係はそれほど明確ではありません。もちろん現在の科学技術からすれば、すべての子どもについてDNA鑑定をすれば父子関係を確定することは物理的には可能でしょう。しかし、それは現実的ではありません。そこで、法律上の父子関係は、血縁上の父子関係とは別に、婚姻という法律関係に着目して推定(嫡出推定)したり、認知という父親の単独行為(法律行為)によって父子関係を創設したりしています。結局、親子関係で問題となっているのは、この父子関係をどうやって処理するかの問題でもあるわけです。
親子関係が確定したならば、次に未成年者との関係で、どのような場合に誰が親権者となるのか問題となります。また、親権がどのような権利で、どのような場合にその行使が問題となり、そのような場合にその権利行使を止めることができるかを整理しましょう。親権者が存在しなくなれば、未成年後見に移行することになるので、この組み合わせも併せて理解しましょう。
その他、親族そのものではありませんが、ある方の判断能力が減退した場合の保護制度として、成年後見・保佐・補助等の制度や親族に関する扶養について定めています。
このように親族法分野は、生前における夫婦関係、親子関係、親族関係について、法的関係を整理するとともに、判断能力がなくなった方を保護する制度としての成年後見等を規定したものと言えます。これに対して、相続法分野では、ある方が亡くなられた場合に発生するもので、その亡くなられた方(=被相続人)の全ての財産(=相続財産)の処理を規定しています。親族法が生前の法的権利義務の問題と位置付けるなら、相続法はある方が死亡した場合の死後の親族間での処理の方法に関するものと言うことができるでしょう。
このような親族法分野の全体像をおさえながら、理解をすすめていきましょう。