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苦手な行政法の克服と答案作成から見る勉強法

1 行政法が苦手な原因とその克服

 

 司法試験・予備試験受験生の中で、苦手な方が多いのが行政法だと思います。

 

 では、どうして行政法が苦手な方が多いのでしょうか。

 

 行政法には他の科目にはない大きな特徴があります。

 

 それは、行政法という法律はないということです。

 すなわち、事前に学んでおくものは行政法理論であり、

行政に関する一般的(通則的)な法律として、行政不服審査法・行政手続法・行政事件訴訟法・国家賠償法・個人情報保護法…などがあります。 

 

 そして、行政法の問題を解くとき、事案をこれらの各法律に直接当てはめれば解決するわけではありません。

 そこでは、事案に行政法規の個別法が適用されており、当該個別法の解釈・適用が不可欠となるわけです。

 

 つまり、そこでは「『行政法理論・通則的法律』を用いて『個別法』を解読し、『事案』に当てはめて解決する能力」(基本行政法、著者:中原茂樹)が求められているのです。

 

 結局、2つの法律の解釈が求められることになるわけです。

 うち、1つは事前に行政法として学び、準備しておきべきことです。

 もう1つは現場で読み解いて、解釈適用しなければいけません。 

 この後者について、どこまで食らいついてできるかどうか、個別法の解釈が問われます!その姿勢も示さず、事前に覚えた知識だけで解こうとしている限り、行政法で十分な点数は取れません。

 

 この能力というのは、決して行政法だけの能力ではなく、すべての法律の基本となる、条文を読んでその適用のされ方と解釈を読み取るというリーガルマインドそのものが求められる事になります。

 


2 行政法の答案作成の手順と勉強法

 行政法の答案の構成・思考の手順について、すべて網羅はしておりませんが、基本的部分を整理しました。

答案作成において、このような流れで考える必要があることを踏まえ、普段のインプットの意識を変えていきましょう。

 

0 設問→問題を読む

 

Ⅰ 事実関係の整理と対応する個別法の分析

①前提事実の整理・理解

→当事者の属性(異なる登場人物がいる場合はその違いに着目→原告適格)被る利益や不利益

利害関係を持つ第三者の存在・被る利益・不利益

処分庁の属性や性質など

 

②個別法の分析

→まずは端的に当該行政処分等の根拠規定を見つけ、その発動のための法律要件(基準)は何かをピックアップする

→その要件(実体要件・手続要件)を充足するかどうかを確認する

 

☆ 根拠法規の要件効果規定: 当該行政処分を発動するために求められる法理要件

➡︎行われる行政処分の内容  

 ∵行政法令における行政活動の根拠規定は、基本的に、

一定の要件(基準)を満たす場合に、行政機関は一定の行政活動をする(ことができる)」という要件効果規定の形

 

2 答案を作成する思考の手順

 ①適切な訴訟類型の検討

☆争うべき対象となる行政庁の行為の性質はどういうものか??

↓↓↓

抗告訴訟(行訴法3条)

❶取消訴訟(2項3項):処分を取り消してなかったことにする

※現在の法律関係を判断する民事訴訟とは異なり、過去の行政行為をダイレクトに争うのが原則

※出訴期間6ヶ月にかからせる

❷無効等確認訴訟(4項):出訴期間を徒過する場合に、重大・明白な瑕疵ある「処分」を無効にする

❸不作為の違法確認訴訟(5項):申請に対して何もしない不作為の違法を確認する

❹義務付け訴訟(6項):まだ行なわれていない処分を求めて義務付ける

 非申請型(1号・37条の2)

 申請型・不作為型(37条の3・1項1号):不作為の違法確認訴訟を併合提起

 拒否処分型(37条の3・1項2号):取消訴訟または無効等確認訴訟を併合提起

❺差止訴訟(7項):まだ行われていない処分を止める

❻法定外抗告訴訟(1項反対解釈)

公法上の当事者訴訟(4条):処分以外の公法上の法律関係を争う

❼形式的当事者訴訟(前段):法令に定めがある場合のみ

❽実質的当事者訴訟(後段):確認訴訟活用論

 

②①で選択した訴訟類型❶〜❽の各訴訟要件の検討

❶取消:ⅰ処分性(3条2項)公権力性・直接法効果 ⅱ原告適格(9条) ⅲ出訴期間(14条):6ヶ月 など

❷無効:❶同様

❸不作為:法令に基づく申請(37条)

❹義務付け:非申請型(37条の2):ⅰ 重大な損害を生ずるおそれ+他に適当な方法がない  ⅱ 原告適格

:申請型(37条の3):ⅰ 各訴訟と併合提起 

❺差止:重大な損害を生ずるおそれ+他に適当な方法がない

 

③①で選択した訴訟類型❶〜❽における本案上の違法事由

※ ❶主張制限(10条1項)、事情判決(31条)

※ ❷処分の瑕疵が重大かつ明白

※ ❹❺処分をすべきことが明らか、裁量権の逸脱・濫用(37条の2・5項、3・5項)

 

A 実体要件違反

●当該行政処分等の根拠規定の要件不充足の主張

●行政法の一般原則

→平等原則:区別の合理性 比例原則:目的達成に必要な範囲

信義則・信頼保護原則、権限濫用)違反の主張

●裁量の存在と逸脱・濫用

→法律の文言:不確定な概念で規定されている場合の要件裁量・処分に選択肢がある場合の効果裁量

→判断過程審査: 他事考慮・考慮遺脱・過大過小考慮(重大な事実誤認)

  

B 手続要件違反 + 本案認容事由になりうるか?!

●当該行政処分等の手続き規定違反

●行政処分

→原則:行政手続法適用  適用除外規定あり:行性手続条例の確認が必要

申請に対する処分か、不利益処分か

→審査基準(処分基準)の設定・公表(行手法5条(12条))

理由の提示(行手法14条)

●行政指導

→不利益取扱いの禁止(行手法32条2項)、方式:明確原則(行手法35条1項)

  

+ 当該手続き違反が本案認容事由になるか

 

 

(追記)行政法の論文試験では、個別法の解釈にどれだけ食らい付けるかが大事なポイントになってきます。

 事前に学んだ抽象的な行政法の理屈をそのまま吐き出すだけでは十分な点数にはなりません。現場で個別法を解釈し、それに食らいつくことで合格点を取ることができます。

 そこで、個別法の例として、児童虐待防止法を使ってその解釈の仕方を解説してみました。一度、深く学んでしまえば、ある程度個別法の読み方のコツがつかめるのではないかと思います。

 



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コメント: 1
  • #1

    琉球大学法科大学院未修者 (火曜日, 06 2月 2024 13:28)

    個別法の読み方の解説が非常にわかりやすかったです。
    ロースクールでは、行政法の一般論しか習わないので、こういった動画はありがたいです。