子どもを預かる管理者の責任〜幼稚園での衝突事故判決〜

 先日、幼稚園内で起こった事故についての判決がでたとの報道がありました。

 幼稚園で園児同士がぶつかり、一方が後遺症の残るケガを負った事案で、幼稚園の責任が問われました。

 私立の幼稚園の場合、保護者が幼稚園と契約をして、子どもを預けていることになります。幼稚園はその契約に基づいて子どもたちに幼児教育を提供する義務を負っております。

 子どもを預かる幼稚園として大切なのは、子どもの命や身体の安全を守ることです。契約に基づいて子どもの生命や身体の安全を守る義務も負っており、このような義務「安全配慮義務」と言います。

 なお、公立の場合、相手方は市町村となり、国家賠償法に基づいて損害賠償請求することになりますが、法的な義務の内容は重なります。

 この義務の内容は一義的ではなく、教諭らがどこまですべきかは、どのような場面、どのような状況かによって異なってきます。
 具体的なその状況において、管理者や教諭らが実際にどこまでできたかを考える必要があります。

 基本的には、その状況で、予測できる事故に対してとれる対応をしていたかどうかです。予測できないことまでは責任を負いませんし、物理的に無理なことまでは求められません。ただ、その状況では対応できなくても、普段からとるべき安全対策を行っていたのであれば、その状況自体が回避できたのであれば、やはり責任を負う場合もあります。

 すなわち、幼稚園側としては、”平時からとるべき安全対策をとっておいた上で、緊急時にその状況で教諭らが適切に対応したかどうか”が問われることになります。

 

 このことを前提に、報道された裁判例の内容をみてみましょう。


 (配信 2023年4月27日 08:30更新 2023年4月27日 12:35:朝日新聞デジタル)

 

 岐阜市の東海第一幼稚園で2017年、ほかの園児とぶつかり内斜視の後遺障害を負ったのは、園側に安全配慮義務違反などがあったからだとして、年中クラスの男児(当時4)側が、園を運営する学校法人に2028万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が26日、岐阜地裁であった。

 

 …判決によると、事故は17年7月20日午後2時ごろに起きた。園児らが遊具を片付けるため遊戯室の外にある道具箱へ行き来していた際、遊戯室から走ってきた園児と男児が1階ホールで衝突。男児は頭を強く打ち内斜視と診断された。相手の園児も前歯が折れた。判決は、道具箱が遊戯室から死角となる場所に置かれていたと指摘。「不意に衝突する事故が発生する危険性は十分認められ、園側が予見することは容易だ」と指摘し、園児らの近くで監視・監督する教諭らを配置する義務があったが、怠ったと認めた。また、「園児らが衝突しないような場所に道具箱を設置する義務も怠った」とした。

 地裁判決は、事故と内斜視について、「相当因果関係が認められる」と判断。その上で、逸失利益を1435万円、男児に後遺障害が残った慰謝料として550万円などと算定した。


 上記報道ベースではありますが、幼稚園側において、道具箱があえて遊戯室から死角になる場所に置かれていた点に着目し、園児が走ってぶつかることが予見できるとし、安全な場所に設置すべき義務を認めたように読めます。

 

 もしかしたら幼稚園側の関係者にとっては少し酷にうつるかもしれませんが、結果的に重大な後遺症まで生じており、幼稚園側においてその責任がないかという観点で見れば、十分に予見し、回避できた以上、責任を負うと評価せざるを得ないでしょう。通常、幼稚園も保険等には加入しているでしょうから、金銭的には保険等によって支払われると推測されます。実質的には、被害者たる園児の保護という観点からもこのような落とし所が想定されるところです。

 

 ただ、この事案からは離れますが、もし園児が全く想定外の行動をして事故が起きた場合は必ずしも幼稚園側は責任を負いません。幼稚園の子供たちの年齢を考えると、どこまでを想定して対策すべきかの線引きは難しいところがありますが、できる限り、想定して、対策をとっておくことが良いでしょう。

 

 関連する事案として、直近でこのような事故が起きてしまいました。まずは何よりも被害にあった子どもの無事を祈るばかりです。

 

 外遊び中、遊具ロープが首に…久喜の保育園で事故、3歳男児が重体 園庭の土山、他の園児が発見(5/3(水) 8:43 埼玉新聞)

 

 どのような状況でロープが首に巻き付いたのか不明ですが、想定できる事故かどうか微妙な判断にはなるでしょう。事故の可能性を回避しようとするあまり、魅力的な遊具などが全て撤去されたり、貴重な体験ができなくなったりすることも、子どもたちの可能性を狭めることに繋がりかねません。

 このバランスは非常に難しいところですが、事故を想定しての安全対策はしつつ、子どもたちにとってかけがえのない体験の場は残してい欲しいものです。