成年後見が大きく変わる、「補助人」一本化へ!

1 はじめに

 2026年6月17日、成年後見制度の抜本的見直しを盛り込んだ改正民法が参院本会議で可決・成立しました。

 高齢化が進む日本社会において、この改正は多くの方の日常生活や財産管理、さらには相続実務にも直結する重要な変化をもたらします。

 実際に施行されるのはまだ先になりますが、改正の概要と相続との関係で気になるポイントを整理します。

 成年後見制度の活用を考えている方にとっても施行前に活用するか、施行を待つか、その判断にも影響するでしょう。

 

2 現行の成年後見制度の問題点ー硬直的な制度と終身利用ー

 そもそも成年後見制度は、認知症等の事情により、本人の判断能力が不十分になった場合に、親族等が家庭裁判所に申し立てをし、裁判所が認めた場合に成年後見人などが指名され、第三者が本人にかわって財産管理や身上監護を行う制度です。

 例えば、判断能力が減退し、過剰に浪費したり詐欺にあったりするおそれがある場合に、日常的な財産管理を第三者に委ねる場合や一部の親族が本人のお金を不当に消費している場合などにその必要性が認められます。

 この制度では、本人の判断能力の程度に応じて補助・保佐・後見の3つの類型に分類されています。

 しかし、この仕組みには、長年にわたり、次のような批判がありました。

 

❶成年後見の類型では、後見人が原則として全ての法律行為の代理権を持つため、本人の自己決定権が大幅に制限される

 

❷本人の判断能力が回復しない限り、この制度の利用を終了することは認められていない(「事実上の終身制」)

 

 すなわち、類型ごとの画一的な取り扱いとならざるを得ないうえ、一度成年後見等が選任されるとそれを取りやめることはほとんどできませんでした。

 例えば、日常の財産管理については家族がサポートして問題はないものの、相続人として遺産分割協議をする必要があり、有効な法律行為を行うだけの判断能力が不十分なために、成年後見制度を利用して有効な遺産分割協議をする場合、この場合でも、いったん成年後見人が選任されると、遺産分割協議が終了した後も、制度の利用が強制され、財産管理をその人に委ねざるを得なくなってしまいます。確かに、法律の観点からみれば、本人の判断能力が不十分である以上、成年後見人がいた方がいい要請はありますが、必ずしも本人の意向にそれがそうと限らず、柔軟な対応は困難となります。

 このような制度の硬直性が、むしろ「使いにくい制度」として利用者離れを招いてきた側面も否定できません。

 

3 改正後の制度の概要ー「補助人」への一本化と途中終了ー

①「補助人」への一本化と途中終了の実現

 3類型のうち「後見人」と「保佐人」を廃止し、「補助人」に一本化されます。判断能力が低下した場合でも、必要な範囲でのみ支援を受け、不要になれば途中で終了できる柔軟な制度設計が実現します。

 

②個別事案ごとの権限付与

 遺産分割や不動産売却など、個別の法律行為ごとに補助人に与える権限を判断する仕組みになります。従来のように、後見人に一律包括的な代理権が与えられたような制度ではなく、事案ごとのオーダーメード型の関与が原則となります。

 

③「特定補助制度」の新設

 本人が判断能力を欠く状況で、家庭裁判所が必要と認める場合に、預金払い出しや不動産契約など重要な財産行為を取り消せる「特定補助」の仕組みも設けられます。

 

④補助人の解任事由の拡大

 補助人が解任される理由として、「本人の利益のために特に必要があるとき」という文言が追加されます。横領などの明確な不正行為がない場合であっても、適切な保護が受けられていない場合には家庭裁判所に解任を申し出ることができるようになります。

 

 この新しい制度の施行時期は公布から2年6ヶ月以内とされております、現在のところ、施行時期がいつになるかはまだ確定していません。

 

 改正の概要については、改正の基礎となった要綱段階での厚生労働省の以下の資料が参考になります。

「成年後見制度の見直し等について」より(厚生労働省)
「成年後見制度の見直し等について」より(厚生労働省)

4 相続や遺産分割への影響

①遺産分割協議と後見の関係が変わる

 ある人が亡くなって相続が発生した場合、遺言がなければ相続人全員で協議して、遺産分割協議をとりまとめなければいけません。この際に、相続人が1人でも欠けていれば、いくら協議がまとまってもその協議内容は無効になります。法律行為を行えるだけの判断能力がない場合も同様であり、遺産分割協議が進められなくなります。

 そのため、現行の制度下では、相続人の一人に判断能力の低下が疑われる場合、必ず裁判所に成年後見開始の申立てをして成年後見人を選任してもらい、成年後見人を含めて遺産分割協議をしなければいけませんでした。そして一度成年後見が開始されると、本人が望まなくても後見人の権限が広範に及び、遺産分割協議が終了してもなお、基本的には亡くなるまで成年後見人が就き続けることとなりました。これは関係者全員にとっても重い手続きとなっていました。

 改正後は、遺産分割という特定の法律行為のみにしぼって補助人を選任してもらい、その代理権に限って裁判所が付与することが可能となります。

 すなわち、相続手続きのためだけに過度に広い成年後見の権限を発動させる必要がなくなり、本人の尊厳を守りながら手続きを進められる余地が広がります。

 

②特定補助制度による取消権と相続財産の保護

「特定補助」は、重要な財産行為を取り消せる点で、被相続人が生前に行った財産処分の事後的見直しに関連してくる場面も想定されます。

 認知症の進行した状態での財産処分を巡る紛争において、一定の役割を果たしうるでしょう。

 

③任意後見などの事前対策の重要性は変わらない

 今回の改正はあくまで法律上認められる法定後見の話です。

 あくまでも任意後見と言って、本人が元気で判断能力が十分あるうちに、本人の意思で後見人を自ら指定しておく制度は別途存続します。

 「本人の意思を尊重する」という改正の方向性は、任意後見や遺言書の作成などの事前対策ツールの重要性をあらためて強調するものといえます。

 判断能力があるうちに遺言書の作成・任意後見契約などを検討しておくことの意義は、この改正後も変わりません。

 

5 おわりに

 今回の改正は、「本人の意思を尊重する」という観点からも、柔軟性を増す制度として歓迎すべきものと思います。

 ただ、施行まで2年6ヶ月の準備期間が設けられており、運用の詳細は今後明らかになっていきます。

 もし成年後見制度の利用を考えている場合、改正前にするか改正後にするか、どちらが適当か、制度の概要を踏まえて見通しを立てて判断していきましょう。

 ご自身やご家族の相続対策について、ご不明点やご心配な点がある方は、一度ご相談ください。