先日、東京・世田谷区の住宅街で、建物の明け渡しを求める「強制執行(断行)」の最中に、家賃保証会社の社員が刺殺され、執行官が負傷するという極めて凄惨な事件が発生しました。
まずは亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、負傷された方の一刻も早い回復を心より願います。
不動産オーナーにとって、家賃滞納したまま居座る方に対する明け渡し請求は正当な権利の行使です。
しかし、法律上、たとえ正しくても、現場では今回のような事態が起こり得ます。自戒を込めて、人生に関わるからこそのリスクにさらされていることを忘れてはいけません。
弁護士の視点から、この事件の背景にある法的実務と対策について解説します。
「立ち退き強制執行中に執行官ら“2人殺傷”「金もないし…」月200件の相談「見えないホームレス」増加の背景(1/23(金) 6:51配信)ABEMA TIMES
報道によると、事件の概要は以下のとおりです。
東京・杉並区のアパート前で部屋の明け渡しの強制執行に訪れた男性2人が、住人である男に刺され、家賃保証会社の・・・(61)が死亡。東京地裁の男性執行官も襲われ、けがをして病院に搬送。命には別条はなかったが、刃物が背中に貫通した状態だった。
今回の事件は、裁判所の判決に基づき、家賃滞納者を強制的に退去させる「断行(だんこう)」の日に発生しました。
具体的に言うと、賃貸借契約を結んで物件を貸した場合、契約上、物件を自由に使わせる代わりにその対価として賃料を請求できます。借主が賃料が滞納すれば、賃貸人である不動産オーナーはまずは催促しますが、滞納が2、3ヶ月を超えてくると内容証明郵便を送るなどしてさらに強く催促をするとともに、支払いがなければ契約を解除することになっていきます。
2ヶ月の滞納で即解除できるかどうかは微妙なところがありますので、少なくとも3ヶ月以上の滞納があれば契約は解除されることになるでしょう。それでも支払いがされなければ不動産オーナーとしても裁判を起こすほかありません。
そのようにして起こされた裁判で、被告となった借主が裁判に出てくれば、実際にはそこで話し合いが行われることも多いのが実情です。オーナーとしても、賃料の支払いがされる見込みがないのであれば出ていってほしいのですが、賃料が支払われる見込みがそれなりにあるのであれば、出て行かせてハウスクリーニングをし、また賃借人を募集して探すよりも、貸し続ける方が得策である場合もあります。そのため、被告側が誠実に対応すれば、裁判上で和解し、未払い賃料を支払うことで住み続けられる可能性もあるでしょう。
他方、被告側が裁判を無視したり、お金がないと開き直ったりした場合には、そのまま判決を出してもらうことになります。判決によって公的に請求する管理が認められることになりますが、それでもなお支払いがなく、借主が出ていかない場合、強制執行の申立てをし、裁判所による明け渡しをしてもらうことになります。法治国家では自力執行は禁止されてしますので、裁判をせずに無理矢理追い出したり、判決があっても勝手に鍵を変えて荷物を運び出したりするわけにはちかず、あくまで法律に基づく執行が不可欠です。
そのため、判決に基づいて強制執行する場合には裁判所への申し立てが必要です。強制執行をする際には、裁判所の職員として執行官が立ち合い、業者を手配して強制的に鍵を開け、中の動産を運び出し、追い出すこととなります。その際、あらかじめ危険性が予見される場合には、警察の立ち会いを要請しますが、そのようなケースはそれほど多くありません。
今回の事件はこのタイミングで起こった事案です。事前に再三の通告は出されていますので、わかっていても出ていけない事情があり、自暴自棄になった可能性が高いでしょう。
実際に、被疑者は「住むところがなくなり、全て終わりだと思った」と供述しているようです。すでに生活保護が切られていたとの報道もありました。
明渡しを断行する強制執行が借主の人生の基盤を奪うことを意味する現場の極限状態を物語っています。
保証会社の方も仕事としてされていたわけで、不本意でしょう。
最もよいのは出ていく先の目処ごたつことですが、報道通り生活保護がすでに打ち切られていたとすれば、それも非常に難しい状況だった可能性があります。
このケースは保証会社が対応したケースですが、弁護士に委任していた場合になんらかの変わったかどうか、その可能性はありますが、わかりません。
いずれにしても、早期に弁護士へ相談し、債務者がまだ次の住居を考える余力があるうちに交渉・手続きを進めていくことが結果としてリスク軽減に繋がります。
裁判所の業務をうけおう執行人まで襲われた今回の事件は日本の司法手続きの安全性を揺るがす重大な事態と言えます。
東京地裁の後藤所長も「安全確保について必要な措置を検討したい」と述べており、今後は執行現場の警備体制が強化される可能性があります。
弁護士としても、単に書面上の手続きを進めるだけでなく、その背景に人がいることやその重みを意識し、対応することが求められます。
日常的に不動産について発信しているYouTubeチャンネル「楽待」でも、事案の速報と解説がされていましたので、以下に梅子混む形で引用させていただきます。