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マンションの耐震性不足による建て替え問題と契約不適合

 先日、マンションの建て替えを巡って、住民らが不動産業者を訴えた とのニュースが報道されました。

 

 東京 世田谷 “マンション建て替え拒否は不当” 住民が提訴(2025年6月4日 19時14分NHK)

 

 経緯や概要は次のとおりです。

 東京の世田谷区にある築27年の8階建てのマンションに関して、住民側によると、2019年から2020年にかけて行った調査でマンションの耐震性に問題が確認され、事業者の東急不動産から建て替えの提案を受けて住民全員が仮住まいに移ったものの、去年3月に建て替えを中止する方針が通知されたということで、住民6人が東急不動産を訴えました。

 東急不動産によりますと、建て替え工事の準備中に建設当時の測量の誤りが発覚して高さなどが建築基準法に適合しない状態になっていることがわかり、適合させて建て替えた場合、規模が大幅に小さくなることから断念したということです。このため、代替案として、部屋の買い取りを提案しています。

 住民側は、東急不動産が一方的に建て替え計画の履行を拒否したのは不当だとして、建て替えの義務を負っていることの確認や、マンションの管理組合が負担した建て替えの調査費用など合わせておよそ5800万円の支払いを求めているとのことです。

 


 このような事案について、まずは一般的なルールから見ていきましょう。

 売買契約において、引き渡された目的物に関して欠陥等があり、契約内容に適合しないと言える場合、買主は、民法上の契約不適合責任を売主に追及することができます。

 具体的には、この契約不適合責任に基づいて、欠陥を修補するように請求したり、相当する代金を減額するように請求したり、損害についての賠償請求をしたり、契約を解除したりすることができます。

 

 ただ、この契約不適合責任には権利行使の期間制限があります。

 法律上、責任追及期間として、買主は権利を行使できることを知った時から5年もしくは権利を行使できる時から10年のみこの責任を追求できることになってます。また、契約不適合を知ったときから1年以内に売主に通知しなければならないと通知期間も併せて定められています。

 ところが、これについては、当事者が合意すれば変更することが可能なルールです。そのため、事業者との取引や契約においては、これが修正され、期間がより限定されていることが多くあります。例えば、目的物によっては引き渡しから6ヶ月以内に限定されていたりします。

 

 ここまでが売買契約に関するルールなのですが、新築マンションの売買においては特別なルールが2つあります。

 

①新築マンションの場合、基礎や柱などの構造耐力上主要な部分(耐震性や耐久性などにとって重要な部分)や屋根などの雨水の侵入を防止する部分(両者をあわせて「基本構造」と言います)の欠陥については、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)の規定により、引渡しから10年間の”瑕疵担保責任”を負うことが義務付けられています(契約不適合責任と基本的には同様)。つまり、当事者の契約によってもこれは短縮できないことになります。

 

売主が宅地建物取引業者である場合は、上記の通知期間について「引渡しから2年以上」としなければならないことが定められています。そのため、実務的には、①を除く「基本構造」以外の欠陥に対象を限定した上で、「引渡しから2年以内」の欠陥について補修の請求などができるように契約書で期間を限定していることが一般的です。

 

 このような法律的な観点からすると、築20年以上経過して発覚した耐震性不足について、販売事業者は契約不適合責任を負わない可能性があります。

 ただ、報道によると、少なくとも東急不動産は、(法律的な責任はともかくとして、)マンションの建て替えを提案し、住民らはこれを受け入れて合意し、建て替えの計画が立てられたようです。このことを推察させるものとしても、記事を見る限り、住民らは、契約不適合責任に基づく請求ではなく、マンションの建て替えを前提としたその後の合意やそれに基づく計画に関する責任を追求しているように見えます。ここがこの事案の特殊なところであり、判決がどのようなものになるか興味深いところです。

 


 

 なお、マンションの自主的な建て替えについては、マンション建替円滑化法に基づいて行うことになります。

 仮に耐震性不足が判明した場合、まずは耐震診断や補強工事の検討をします。補強が困難な場合や危険性が高い場合、管理組合が行政に「要除却認定」を申請し、認定後に建替えや敷地売却の手続きをしていくことになります。

 建替えの決議には、「区分所有者および議決権の各5分の4以上」の賛成が必要となります。耐震性不足などで行政から「要除却認定」を受けたマンションの場合、敷地売却も同じく5分の4以上の賛成で可能となります。