神戸の弁護士が解説!日本コカ・コーラ「退職勧奨」による労災認定と不当な退職勧奨への対抗策

1 日本コカ・コーラ元部長の労災認定、逆転勝訴

 

 本日、労災認定に関する注目すべき判決が東京地裁で下されました。

 日本コカ・コーラの60代元部長が、執拗な退職勧奨によってうつ病を発症したとして労災と認めるよう国を訴えていた裁判で、東京地裁は「会社は威圧的で執ように退職を強要した」として労災不支給決定を取り消し、労災認定を認める判決を下しました。

 

 報道によると、事件と判決の概要は以下のとおりです。

 

【日本コカ・コーラ元部長のうつ病訴え 労災と認める】(2026年3月10日付NHK NEWS)

「日本コカ・コーラ」で2019年に部長を務めていた62歳の男性は、コンプライアンス違反を疑われ、調査で明確な違反は認められなかったものの、能力不足を理由に退職を勧奨されたほか、職場に戻った後も配置転換されるなどしました。・・・

10日の判決で東京地方裁判所の木地寿恵裁判長は「元部長の能力不足を裏付ける証拠はなく、退職勧奨に至る理由が十分なものだったかは疑わしい」と指摘しました。

また、退職の意思のない元部長に対し、会社側が面談で「なぜ外を考えないのか」、「在籍することが価値なのか」などと繰り返し伝えたことについては威圧的で執ように退職を強要した。元部長は強い心理的な負荷を受けた」と認めました。」

 

2 精神障害の労災認定要件の実情

  仕事が原因でうつ病などの精神障害を発症したというケースは多く、体感的にも増えています。

 ただ、それが「労災(労働災害)」として認められるためには、あくまで厚生労働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に基づいた3つの要件をすべて満たす必要があります。

 ここは冷静に客観的資料を揃える必要があるところであり、一定のハードルがあります。

 

 厚労省HP:「心理的負荷による精神障害の認定基準について」

 

【3つの要件】

① 対象となる精神障害を発病していること

 単なる元気がない状態ではなく、医師によって国際的な診断基準(ICD-10または移行中のICD-11)に基づき、うつ病、適応障害、急性ストレス反応などの対象疾患と診断される必要があります。

 ※認知症や薬物依存などは対象外です。

 

② 発病前おおむね6か月の間に「強い心理的負荷」があったこと

 ここが判断が分かれる最も重要なポイントでしょう。発病前の約6か月間に、仕事による「強」と判定されるストレス(心理的負荷)があったかどうかが審査されます。これについては出来事と評価の判定方法が詳しく公表されていますので、後ほど少し掘り下げていきます。

 

③ 業務以外の要因(私生活や既往歴)で発病したとは認められないこと

 離婚、身内の不幸、多額の借金といった私生活でのストレスや、精神疾患の既往歴が主原因でないことが求められます。

 

 このうち、②に関しての判断が難しく、結論が分かれる可能性があります。これについて、厚労省は「心理的負荷評価表」というリストを公開し、出来事ごとに「強・中・弱」を判定するとともに、その評価方法などを公表しています。

例えば、以下のようなケースでは、この1つの事情単独で「強」と判定される可能性が高いです。

 

過重労働

・発病直前1か月に概ね160時間を超える時間外労働があった

・直前3か月連続で月100時間程度の時間外労働があった

 

パワーハラスメント

・上司等から、人格を否定するような言動を執拗に受けた

・身体的攻撃(殴る・蹴る)を受けた

 

カスタマーハラスメント

・顧客から著しい迷惑行為(長時間の拘束、暴言、理不尽な要求)を反復して受けた

 

仕事内容・量の変化

・達成困難なノルマを課された

・退職を強要された(解雇の通告など)

 

セクシャルハラスメント

・胸や腰を触られる等の身体的接触を含むわいせつ行為を受けた

 

 特に、今回の退職勧奨のように、ハラスメントに当たりうる行為については以下のとおりとされています。

「カ ハラスメント等に関する心理的負荷の評価  ハラスメントやいじめのように出来事が繰り返されるものについて は、繰り返される出来事を一体のものとして評価し、それが継続する状 況は、心理的負荷が強まるものと評価する。 また、別表1において、一定の行為を「反復・継続するなどして執拗 6 に受けた」としている部分がある。これは、「執拗」と評価される事案 について、一般的にはある行動が何度も繰り返されている状況にある場合が多いが、たとえ一度の言動であっても、これが比較的長時間に及ぶ ものであって、行為態様も強烈で悪質性を有する等の状況がみられると きにも「執拗」と評価すべき場合があるとの趣旨である。」

 そのため、ハラスメントに当たる行為の場合は「執拗」に当たるかどうかが問題となってきます。

 

生成AI(Gemini)を利用したまとめ画像
生成AI(Gemini)を利用したまとめ画像

3 退職勧奨が違法になる境界線とそのような場合の対応策

  今回のケースのように、会社が従業員に退職を勧めること自体は、直ちに違法ではありません。

 

 しかし、今回の判決では、以下の点が強調され、「威圧的」で「執拗」であると判断されています。

 

①まずはそもそも退職勧奨自体が不当な理由によるものであったこと

 判決では、退職勧奨の理由自体が、客観的な証拠に基づかない「能力不足」との判断によるものであったとされています。退職勧奨自体が違法とまでは言えないとしても、不当な理由による行為であったと評価できるでしょう。

 

②本人が拒絶しているにもかかわらず、何度も退職勧奨が繰り返されたこと

 本人が拒絶しているにも関わらず、退職勧奨を繰り返すことは違法となりえますし、労災認定における「執拗」とも評価できる事情になるでしょう。

 

③退職勧奨の態様が威圧的であったこと

 会社側の退職勧奨の態様について、「なぜ外を考えないのか」、「在籍することが価値なのか」などと繰り返され、威圧的なものであったと評価されています。このような具体的な伝え方自体も違法になりうる可能性がありますし、労災認定における「執拗」なハラスメントとして評価しうる事情になるでしょう。

 

 これらを総合して、執拗なハラスメントによるうつ病として労災認定が認められたものと推察されます。労災認定の判断ではあるので、明確にされていませんが、上記のような事情からすれば退職勧奨自体も違法であったと言える可能性もあるでしょう。

 

 もし、このように退職勧奨を繰り返し受けた場合には、記録に残る形でそれを拒否しておくことが大切です。それでも繰り返されるようであれば証拠を確保しつつ、違法性を指摘していきましょう。

 ここでは早期に弁護士に相談することをお勧めします。

 

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